日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #47
サッポロ「大人エレベーター」は、最高のコンテンツ。だが、ビールの広告としては疑問も
私は長年、多くの広告コミュニケーションの海外事例を紹介、その分析に努めているのですが、この連載では、いつもとはある意味では逆に、まず日本の話題作に目を向けて解説し、そのうえで、その意図や施策の在り方が、海外のどんな潮流と関連しているのかについて考えて行こうと思います。今回は、その第47回です。
三苫薫版も、奥田民生版も最高のコンテンツ。でも…
2010年に始まって、もう10年以上続いているサッポロビールのテレビCMシリーズ「大人エレベーター」。架空の「大人エレベーター」に乗り込んだメインキャラクターの妻夫木聡さんが、フロア数に応じた年齢の大人たちに出会い、「サッポロ生ビール黒ラベル」を味わいながら、「大人」というテーマについて本音で語り合う、というものです。
第47弾はサッカー三苫薫選手(26歳なので26階)、最新の第48弾がミュージシャンの奥田民生さん(58歳なので58階)が、魅力ある大人として描かれています。今年1月に放映された箱根駅伝の中継でも、盛んに流されていました。
三苫選手を例に取ると、「サッカーとは?」という質問に「日常。歩いてる感覚くらいでサッカーをやっているような」、「サッカーにおいて最もしてはいけないことは?」には「仲間割れじゃないですか」、「悩むほうですか?」には「悩むほうですね。自分と対話してる回数が多いと自分でも思います」、「アシストとゴール、どちらか選ばないといけないとしたら?」には「決めるたびに、やっぱゴールいいなって」といった会話になります。
ふだん他のメディアでは触れることの出来ない三苫選手の言葉に溢れていて、サッカー観戦ファンの自分としては、楽しくて仕方のないコンテンツになっています。
ただ、この内容で「サッポロ生ビール黒ラベル」を飲みたくなるか?と問われれば、自分の場合はノーです。もちろんブランドへのファンづくりといった意味合いが大きいのは理解できます。また、最後には、妻夫木さんがビールを飲むシーンと「丸くなるな、★星になれ」(★は『サッポロ生ビール黒ラベル』のトレードマーク)のメッセージが掲示され、商品に繋げる工夫が一定程度なされています。
しかし、それにしても、です。もう少し、ビールが飲みたくなるような内容を目指すべきなのでは?と感じてしまいます。特に正月に箱根駅伝放映時に流されたあるバージョン(ネット上では見つかりませんでした)では、まったくビールを飲むシーンが出てこず(手と手でエア乾杯をするシーンだけ)、最後に三苫選手と妻夫木さんが一緒にリフティングをするシーン(奥田民生さん版では、2人で楽器を演奏しているシーン)が加えられています。
より深い関係性を描きたかったという意図は理解できますが、ビールを飲むシーンも商品が映し出されるシーンも一切なく、「ビールの広告としては、どうなのか?」という疑問符が頭に浮かびました(「ビール業界の自主規制に対応したものではないか?」とのご指摘もいただきました。確かにこのバージョンは、そうなのかもしれません)。
※読者からのご意見を受けて、一部追記しました。