日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #48
オダギリジョー父親役、相鉄・東急記念ムービーに学ぶ「アイデアとエグゼキューション」の重要性
私は長年、多くの広告コミュニケーションの海外事例を紹介、その分析に努めているのですが、この連載では、いつもとはある意味では逆に、まず日本の話題作に目を向けて解説し、そのうえで、その意図や施策の在り方が、海外のどんな潮流と関連しているのかについて考えて行こうと思います。今回は、その第48回です。
父娘の12年間と電車での旅路を重ね合わせた秀作ムービー
2023年3月、相鉄線が東急線に直接乗り入れて、例えば西谷駅(横浜市保土ヶ谷区)から渋谷駅に出るのは格段に便利になりました。東京都港区在住の筆者は仕事で月に1回、西谷駅近くの星川駅まで出かけるのですが、直通線開通以来、その便利さをヒシヒシと実感しています。
その相鉄・東急直通線開業記念ムービーとして制作されたのが、「父と娘の風景」です。幼い娘と父が相鉄線の電車の中にいるシーンから始まり、電車の中をカメラがずっと引いて来るのに合わせる形で、娘は成長し、父は年齢を重ねていきます。幼少期・思春期・反抗期など、小学生から高校卒業頃まで、親子関係が変化していく様子が描かれます。
終盤近く、「東京、遠いな」という年齢を重ねた父の言葉と、「あっと言う間だよ」という大人になった娘の言葉、最後に聞こえる「まもなく、渋谷」のアナウンスの声で、相鉄線が便利になったことを、とてもエモーショナルに伝えていると言えるでしょう。
相鉄「父と娘の風景」(メイキング映像含む)は、こちらで見ることができる。
この動画は、ストーリー自体もさることながら、それを素晴らしく描くことに成功した撮影技術にも注目が集まりました。映像ディレクターは、これまでも数々の話題作を世に送り出してきた柳沢翔監督です。25人のオダギリジョー役、25人の山崎天役が時間差演技を試み、25台のループ車両を用意し、そのすべてを人力でワンカットで撮り切った(相鉄のHPを参照しました)撮影技術は大きな賞賛を浴び、メイキング映像も多数観られることとなりました。