日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #50
SNSでも話題の花王メリット「家族愛」広告。心に刺さる普遍的価値を上手に描く
私は長年、多くの広告コミュニケーションの海外事例を紹介、その分析に努めているのですが、この連載では、いつもとはある意味では逆に、まず日本の話題作に目を向けて解説し、そのうえで、その意図や施策の在り方が、海外のどんな潮流と関連しているのかについて考えていこうと思います。今回は、その第50回です。
家族シャンプーを標榜する「メリット」が商品アピールにも成功
筆者にとっての「メリット」は、中高生の頃の記憶をたどれば、フケに効くシャンプーです。1970年の発売当時は、「シャンプーするだけでフケ・カユミが止められる」というメッセージで、ヒット商品になったと言います。市場に新しく登場する際に、機能的な特徴を伝えるのが得策だったのでしょう。
時は流れて2024年。50年を越えるロングセラー商品となった「メリット」が打ち出したのは、「さまざまな家族愛を応援するブランド」というメッセージです。誰もが知っている商品が今さら一般的な機能を訴えるよりも、普遍的な価値を上手に描き、そこに寄り添うブランドとして、いわばその価値のそばに商品を“置いて”あげることで、売上にも繋がると考えたのでしょう。
テレビCMでは、「1人で自転車に乗れるようになる娘とその父親の姿」を、可愛らしくも味のあるアニメーション(イラストレーターのニシワキタダシさんを起用)で描きました。楽曲は、エレファントカシマシの『今宵の月のように』の子供の声バージョン。子育ての喜びと、子どもが成長するにつれて感じる切なさが見事に表現されています。
グラフィック広告も2種類用意されていて、「友だち」に子育て世代が多い筆者のSNSでは、“共感した”や“グッと来た”といった感想が多数投稿されています。グラフィック広告のうちの1つは、「最終回は、気づかないうちに終わっていく」というキャッチフレーズ。
出典「家族と愛とメリット」の広告キャンペーン
「今日からシャンプー、自分でやる」と言い出した子どもとのやり取りを通して、二度と戻らない瞬間が、そうとは言わずに過ぎていくと、子育て真っ盛りの親の気持ちが、感慨深く表現されています。