新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ #07

「新しい学校のリーダーズ」はデビュー8年でなぜヒットした?アソビシステム代表中川悠介氏が明かす「クリエイティビティ・ファースト」な裏側

前回の記事:
「きゃりーぱみゅぱみゅ」と「新しい学校のリーダーズ」で世界を席巻 アソビシステム代表中川悠介氏の「できないことはない」思考
 日本の音楽・映画・ゲーム・漫画・アニメなどのエンタメコンテンツが、世界でも注目されることが多くなった昨今。さまざまなエンタメ領域の舞台裏で、ヒットを生む旗手たちの思考をnoteプロデューサー/ブロガーの徳力基彦氏が解き明かしていく本連載。

 第3回は「きゃりーぱみゅぱみゅ」など独自の世界観を持ったアーティストのプロデュースで世界を席巻したカルチャープロダクション「アソビシステム」代表取締役 中川悠介氏にフォーカス。前編では、原宿文化の魅力に早くから気づき、応援する目的で同社を設立した中川氏が、きゃりーらとの出会いで海外市場を開拓していった軌跡と、「天井」を設けない思考に追った。

 後編の今回は、昨年「オトナブルー」が大ヒットし、直近では世界最大級の音楽フェス「コーチェラ」に単独出演するなど超ブレイク中の「新しい学校のリーダーズ」をはじめとした、ヒットを生み出す中川氏の戦略に迫る。才能を見つけて掛け合わせ、レーベルや事務所の垣根を越えてアーティストを「全方位サポート」する中川氏の次なる目標とは。
 

才能を見つけて掛け算する


徳力 前編では「きゃりーぱみゅぱみゅ」さんのMVにこだわり、海外展開に成功した事例を伺いましたが、一般に所属アーティストが増えると成功事例を「横展開」しがちです。その結果、アーティストの個性や打ち出し方のパターンが似通ってきてしまうということがありますが、アソビシステムのアーティストはそれぞれ、全然違いますよね。

中川 もちろんアーティストを成功させることが我々の仕事ですが、やっぱり一番大事にしたいのは本人たちのクリエイティビティです。特に、昨年末初めてNHK紅白歌合戦に出場した「新しい学校のリーダーズ」と、日本レコード大賞最優秀新人賞を受賞した「FRUITS ZIPPER」は、いずれも昨年ブレイクしたガールズユニットですが、全然違いますね。
  
FRUITS ZIPPER(出典:アソビシステム)

徳力 新しいアーティストは、「こういうグループを作りたい」といったイメージが先にあって、合う人を見つけてくるのですか?育てるのでしょうか?

中川 ふわっとしたイメージはあったりしますが、それよりも「面白い子を探してきて掛け算する」という感じです。僕の言うことってすごくふわっとしていて社員も苦労していると思うんですが、型にはめ過ぎて失敗するのは嫌だなと思っています。「新しい学校のリーダーズ」の場合は、僕だけでつくったわけじゃなく、(合同でマネジメントしている)TWIN PLANETやテレビ朝日ミュージックの方々はもちろん、いろんな人と関わり合いながら、本人たちが頑張って今の形に成長していったのです。
 
アソビシステム 代表取締役
中川 悠介 氏

「新しい学校のリーダーズ」は日本では昨年、突如大ブレイクしましたが、実はデビューして8年も経ちます。ずっと「売れる」と言われてきたのですが、観客10人のライブの頃から自分たちの夢を信じて、頑張り続けたのが彼女たちの才能だと思います。

別のオーディションのために撮っていた動画を(アジアのカルチャーシーンを世界に発信する)88risingという米音楽レーベルCEOに気に入られ、2020年のコロナが大流行する直前にロスとラスベガスに渡って契約にこぎ着けたのです。今でもよく覚えているのですが、下積みを続けてきた彼女たちの魅力を世界に伝えられるチャンスだと思って必死でした。

徳力 その後、88rising から世界デビューし、2020年の楽曲「オトナブルー」が2023年にTikTokで話題になり、日本でも大ブレイクしたのですね。こちらもきゃりーさんと同様、海外での人気が先行していますが、そうやってチャンスを掴み取りに行ったのですね。コロナで海外渡航が難しくなる直前に間に合ったのも良かったですね。

中川 そこも含めて彼女たちの力だと思います。

徳力 そもそも3年前の楽曲がヒットするというのも、昭和世代からすると驚くべき現象ですね。従来の音楽プロモーションは、新譜のCDを売ることが8~9割を占めていて、新曲をいかにプロモーションするかが最も重要でした。

中川 今は新譜を売るのが全てではなく、レーベルもプロダクションも垣根なく、アーティストを全方位でサポートする時代になってきています。「新しい学校のリーダーズ」も3社合同マネジメントにしている意味は大きいです。世の中のニーズとしても、「今目の前にある新しいもの」ではなく、「今聞きたいこと・今見たいもの」を自由に選べる状況を求める方向に変わってきているのだと思います。ドラマもTVerの見逃し配信が数字を作っていますね。

徳力 確かに、以前この連載で「YOASOBI」のヒットを仕掛けたソニー・ミュージックエンタテインメントの方々をインタビューした時に、「アイドル」のように大ヒットした楽曲だけでなく、アーティストの「総量」としてのブランディングを意識しているという話が印象的でした(※)。

一方で、最近はYouTuberやVTuberなど、能力が高ければ売れる個人アーティストが増えており、事務所に所属していたアーティストも独立するような動きがあります。個人主義が強まる中、中川さんはプロダクションという組織の役割をどうお考えですか?

中川 僕は今までの「事務所に入ってないと活動できない」という流れがおかしかっただけで、個人で活動するのも事務所に入るのも、本人が自由に選んでいい時代だと思っています。ただ、僕らは、そのアーティストを「どう売っていくか」に加えて、「いかに長く活躍できるようにするか」という、セールス以外の価値を上げていくことも仕事だと考えています。長く活動するアーティストでいたいのであれば、よほどマルチな人でない限り、事務所がサポートした方がいいと僕は思いますね。

※参考記事:「YOASOBIプロジェクト」のヒットからマーケターが学べる鉄則とは?

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