日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #53

あえてロゴはしっかり見せない? 世界観をメッセージした、サントリーと英国航空の常識破りな広告

前回の記事:
商品価値を「世の中ごと化」して伝える。ゼスプリ新CMとW杯優勝アルゼンチン企画の共通点
 私は長年、多くの広告コミュニケーションの海外事例を紹介、その分析に努めているのですが、この連載では、いつもとはある意味では逆に、まず日本の話題作に目を向けて解説し、そのうえで、その意図や施策の在り方が、海外のどんな潮流と関連しているのかについて考えていこうと思います。今回は、その第53回です。
 

商品の見え方はボケボケだが、リアリティ抜群


 何気なくテレビを付けていたら、このCMがふと流れてきました。冒頭近くのシーンで、全力で山道を駆けていく幼い男の子の姿に目線が釘付けになります。遠くに見えているのは、天然水を育むのであろう雪をいただいた山々。聞こえてくるのは、中学生高校生の合唱団の歌声による、一青窈さんのロングセラー・ヒット曲「ハナミズキ」です。

 柄本祐さん演じる父親の「そろそろ休憩しようか」のひと言で、ベンチで休む父と息子が口にするのはサントリー天然水。しかし、勢いよくキャップを開けるシーンでも、商品の見え方はボケボケです。父親が飲むシーンでも、小さな息子が美味そうに飲むシーンでも、パッケージはボンヤリとしか見えません。
 

 私の経験からすると、普通メーカーというものは、テレビCM内に登場する自社商品を、シッカリと見せたがるものです。そのことをよく知っている広告会社側も、商品ははっきり見えるようにします。それなのに、このボケボケ具合は、いったい何でしょう? 私は、このテレビCMを見ていて、そのことがとても気になりました。

 そして聞こえて来るのは、「その天然水は、100年先を約束している」という安藤サクラさんによるナレーション。安藤さんは実生活では、柄本さんの奥様で一緒に父と母として子育てをしています。さらに、父と息子の休憩する姿にかぶせて、「ずっとずっと水と生きてゆけますように」のナレーション。再び勢いよく駆け出す少年。その後ろ姿に「おーい、大自然を味方にして生きて行くんだよ!」と、母親からの声かけに聞こえるナレーションが続きます。そして最後の最後に、パッケージのロゴ部分が、クッキリと映し出されて終了です。

 さて、このCMの親子の休憩シーンで飲むサントリー天然水のパッケージが妙にハッキリと見えていたら、どうでしょうか? 少なくてもリアリティは大幅に減りますよね。商品そのものよりも、商品のある世界観を重視することで上手くいっている例と言えるでしょう。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録