新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ #10

『カメ止め』の上田慎一郎監督が最新映画『アングリースクワッド』に全力投球しながら縦型ショートフィルムでバズを生み出す理由

 

縦型ショートフィルム参入のメリット


徳力 ではここからは、企業とのタイアップも多い縦型ショートフィルムについて伺いたいです。長編映画を手掛けながら、どういう流れでの縦型ショートフィルムに参入したのですか。

上田 僕が縦型ショートフィルムを撮り始めたのは約2年前です。TikTokのアンバサダーとして、応募作品の審査員をやってほしいと依頼されたんですが、僕は縦型ショートフィルムを撮ったことがないのに審査などできないですよ、僕も1本つくってみます、となって。

徳力 真面目ですね(笑)

上田 それで2022年11月に公開した第1作が『キミは誰?』です。やってみて、映画とは種目が違う感じがして、すごく面白かったんです。
 
@picorelab 会話サポートAI、使う?「キミは誰?」第1話 #ショートフィルム #アンバサダー #倉悠貴 #横田真悠 ♬ オリジナル楽曲 - 上田慎一郎
「キミは誰?」(クリックするとPICORE公式TikTokに飛びます)

徳力 つくり手の楽しんでいる感じがすごく伝わってくる作品でしたね。

上田 その後に自主制作でつくった『レンタル部下』が、TikTokとカンヌ国際映画祭によるコラボ企画の第2回「#TikTokShortFilm コンペティション」でグランプリをいただき、これが話題になったおかげで、企業から多くのオファーをいただくようになりました。

徳力 面白いですね。最近は就活でも選挙でもショート動画の影響力が強いですから、上田監督はその流れをいち早く察知して参入したのかと思っていましたが、『キミは誰?』を出したのは縦型ショートフィルムがブレイクするより前でした。狙って始めたわけではなく、審査員を依頼されたのがきっかけとは驚きです。

上田 割といつも、行き当たりばったり…。

徳力 行き当たりばったりで時代の最先端を食っていますよね。すごく面白い。

上田 三井住友カードのPR「忙しすぎる人」、KDDIさんと組んだ『みらいの婚活』など、ここ最近、企業とのタイアップで制作した縦型ショートフィルムの半分くらいはバズっています。

徳力 めちゃくちゃ打率高いですね。

上田 最近はオファーを受け切れないので監修に回り、若手に監督してもらうことも多いです。以前は「『カメ止め』の上田監督」と言われることが多かったですが、最近は「縦型ショートフィルムを見ました、映画も見てみますね!」と言われることが増えました。

徳力 代名詞が変わってきたんですね。

上田 そうですね。今回の映画『アングリースクワッド』でTikTokerとのコラボ動画が実現したのも、縦型ショートフィルム関係の人脈ができたおかげかもしれません。

徳力 先ほど、映画と縦型ショートフィルムでは「種目が違う」と仰いました。実際、前者は長大なマラソン、後者は最初の1秒が肝心な超短距離走だと思いますが、両方やるメリットは感じるのですか。

上田 すごくあります。縦型ショートフィルムで得たことを映画に還元できますし、逆もあります。

徳力 たとえばどんなことですか。
  

上田 両者の違いで言うと、まず見ている層が違います。これまで映画ファンの声を聞くことは多かったですが、縦型ショートフィルムは若い方、そしてビジネス層も意外と多いです。

徳力 就職ネタが多いからですかね。

上田 あとAIやテクノロジー系ですね。フォロワーの多い経営者層も引用したりリポストしたりしてくれるので、バズに繋がりやすい面もあります。

徳力 ITビジネス界隈、スタートアップ経営者層か。確かにブレストなどの参考になりそうですね。そういった現象は、確かに映画では起きにくいかもしれませんね。彼らのような人々に映画館に来てもらい、さらに口コミしてもらうとなるとハードルが高い。

上田 そういう人々の感想は、これまであまり接したことがなかったので、新鮮に感じることが多いです。なるほど、若い人やビジネス層の感覚や価値観はこうなのか、と。それは映画をつくる時の材料になります。

徳力 平均2~3分の縦型ショートフィルムの制作を難しいとは感じませんか?

上田 最初は「間」を詰めないとスワイプされてしまう、視聴維持率が下がってしまいオススメ動画に載りにくくなる、といった文化の違いに戸惑いを感じましたが、難しさはあまり感じなかったですね。

たとえるなら、水泳という競技は一緒で、平泳ぎかクロールかという違いです。TikTokerの作品を見ると、映画とはカット割りなどの「文法」が違うと感じます。僕は比較的、従来のドラマや映画の文法を縦型ショートフィルムにも応用しています。

徳力 ショートでも映画でも、泳ぎ方を変えれば通用することを上田監督が証明してくれている感じですね。

上田 縦型ショートフィルムはカット数がすごく多くなります。縦型の画角は人間にフィットしやすいですが、2人以上の会話となると適しません。一方、お客さんの髪を切りながら美容師さんが喋るような構図はすごく合っています。このように縦に合う構図を探すのは楽しいですね。

どちらかというとテレビに近いかもしれません。縦型ショートフィルムも退屈だとすぐスワイプされてしまいますが、テレビもチャンネルを変えられないことに必死じゃないですか。

徳力 なるほど。映画は映画館に入ってもらえれば、ある程度集中して見てもらえますね。

映画やテレビドラマをつくるのには、これまでかなり高いハードルがありましたが、縦型ショートフィルムは若手クリエイターも参入しやすく、その意味で「エンタメの民主化」と表現する方もいます。

一方で、上田監督のように既に映画で高みに達している人が縦型ショートフィルムに挑戦して楽しんでいるのは、すごく面白いことが起こっている気がしますね。

後編に続く

※徳力基彦氏・上田慎一郎氏の前回対談記事はこちら
前編:反対意見を言う人は敵だ、とは思いたくない。『カメラを止めるな!』上田監督の信念
後編:普通、そこまで監督がやる? 『カメラを止めるな!』 上田慎一郎が伝授するTwitterプロモーション
他の連載記事:
新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ の記事一覧
  • 前のページ
  • 1
  • 2

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録