テレビCM新時代 #04

将来、広告会社と放送局は競合するか? ノバセルと日テレが見据えるテレビCMの価値と未来

前回の記事:
ノバセル、日テレ対談「運用型テレビCMの先駆者」と「地上波の覇者」が語るテレビCMの未来
 デジタル広告の普及によって、広告効果を数値で明らかにし、それに基づいてすばやくPDCAを回すことが当たり前になりつつある一方で、テレビCMは、高額であるにもかかわらずその費用対効果が見えにくく、直前の差し替えもできないという大きな課題を抱えてきた。

 その解決策として注目を集めるのが、「運用型テレビCM」だ。広告代理店事業を中心にマーケティングプラットフォームを展開するノバセルは、運用型テレビCMのパイオニアとしていち早く業界に切り込み、その普及を目指してきた。一方で、サプライヤーである日本テレビも、インプレッション(広告表示回数)単位で取引ができ、これまで不可能だったターゲット指定や直前の素材差し替えなどが可能なアドプラットフォーム「スグリー」を開発し、テレビCMの最適化に取り組もうとしている。

 こうした動きの中でテレビCMは今後、どのように変わっていくのか。Agenda noteではノバセル グロースパートナー事業部 事業部長の綿川奨吾氏と、日本テレビ 営業局営業戦略センター アドリーチマックス(ARM)部の武井裕亮氏の特別対談を実現。前編に続き、後編では競合とも指摘される「スグリー」の将来構想とノバセルが目指す「マーケティングの民主化」、そして両者が目指すテレビCMの未来について展望を語り合った。
 

広告会社の競争領域


―― 前編ではノバセルが推進する運用型テレビCMと、日本テレビが開発中の「スグリー」について、それぞれの現在地を聞きました。特に、スグリーの取引指標については、在庫管理の難しさから、現状では指標の多様化が難しいという説明がありました。

武井 はい。私たちがスグリーの取引指標の多様化に一旦は踏み出さない理由ですが、在庫管理の問題に加えて、このサービスが「誰にとって便利なサービスでありたいか」ということに関わってきます。

スグリーについてご紹介すると、「ノバセルさんなど、広告会社と競合なのではないか?」と指摘を受けることがあります。

綿川 そう言われそうですね。

武井 我々にはその意図は全くないです。ブランドリフトなど指標を可視化したり、たとえば雨予報が出たら自動的にクリエイティブを差し替えるようセットしておいたりといったことは、技術的に不可能ではありません。しかし、本来そこは広告会社の競争領域のはず。私たちが踏み込むべきなのか、スグリーはどこまで行くべきなのか、私たち自身も実は見定められていないのです。

テレビCMの世界はやはり、広告主と媒体だけでなく、広告会社の皆さんに上手く捌いていただくことが重要だと思っています。どのような形であれば、広告主や広告会社の皆さんにとってより良いサービスにできるか、ぜひご意見をうかがいたいです。
 
日本テレビ放送網 営業局営業戦略センター アドリーチマックス(ARM)部 アドリーチマックスプロジェクト 事業統括 
武井 裕亮 氏

綿川 非常に興味深いお話です。前提として、広告投資は広告主のものであるべきで、広告会社はそこを最適化する機能であると考えています。たとえれば、広告会社は料理人だと思っています。

クライアントさまの持つ「価値ある食材(プロダクト)」を最適な形に「料理させていただき(広告表現をつくり)」、放送局やデジタルの媒体社の「素敵なお皿(放映プラットフォーム)」を通じて、お客さまである消費者へ、ご提供させていただく。マーケティングの広告領域におけるこの伝統的な構造には、長く続いてきたなりの合理性があり、基本的にこの構造は崩れないのではと思っています。

この前提に立った場合、料理人は「食材」や「お皿」が変わったら、これまでのスタイルを変えて、対応しなければならない。放送20分前の差し替えがスタンダードになれば広告会社も当然、それに対応していく必要があります。これは正直なところ実に面倒ではあるけれど、やらなくてはなりません。

その中で、スグリーなどが出てきて、広告会社に刺激が与えられ、新しいテクノロジーをどうクライアントさまの事業価値に繋げるか? を考えざるを得なくなる。このボトムアップの循環は素晴らしいと思います。私たちのようなチャレンジャーな広告会社は、もともとフェーズ1から「広告主のために」を原理原則として事業貢献への最短距離を追求して、言うなれば非常に面倒な作業を伴う運用型を突き詰めてやる必要がありました。スグリーが出てきたことで、より広告会社としての腕が試される、と感じます。広告会社のツールとスグリーなどプラットフォームが接続するというのも、構想としては考えられそうです。
 
ノバセル グロースパートナー事業部 事業部長
綿川 奨吾 氏

武井 本当にそうですね。広告全体で見れば、たとえばOOHはデジタルサイネージ化して今ではプログラマティック取引も行われていますが、テレビは地上波デジタル放送に完全に切り替わったのが2011年なのに、ビジネスモデルやオペレーションはほとんどデジタル化しないまま来てしまいました。もちろん、クリエイティブやコンテンツのやり取りは全てファイル化、デジタル化していますが、売り方の仕組みや商品性はアナログ時代を引きずり、オールドメディアと呼ばれてしまっています。

今、私たちはようやく真のデジタルメディア化に取り組んでいると理解していただきたいです。コンテンツを手元のスマホに届けるのと同じように、リビングルームの中の大きな板にも届くようにしたいです。今はまだ白いキャンバスにスグリーという小さい丸を描いたに過ぎません。どんな線をどんな色に塗っていくかは、まだまだ考えていかなければというところです。

綿川 ちなみに、スグリーのサービス開始当初の在庫確保やタイムスケジュールはどのように考えているのですか。

武井 導入規模は議論していますが、当初は在庫全体の3~10%を想定しています。2024年12月からアカウント開設が可能になり、2025年3月に関東ローカル枠のセールスを開始し、4月に放送を開始します。

綿川 なるほど。インプレッション取引やオークション、放送20分前の差し替えといったスグリーの特徴が、クライアントにとってメリットのあるユースケースとともに示せたらいいかも知れませんね。

我々はそこにかなり近いことをやっていると自負していて、たとえばウェザーニュースさんのCMは、雨の日に放映すると天気予報アプリのダウンロード数の効果が格段に良いことが明らかになったため、雨の日に放映日を寄せるメディア戦略を取りました。スグリーのようなプラットフォームが加わると、また新たな景色が見える予感がしますね。

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