国境は地図の上にない、心の中にある #14

グローバルマーケティングの実態、アジア市場への挑戦に必要なパーパス【A’ALDA(アルダ)CEO 奥田昌道】

前回の記事:
元ユニ・チャームグローバルマーケティング本部長の木村幸広氏が語る、今のマーケターに伝えたいこと
 ユニ・チャームで30年以上に渡ってマーケティングに携わり、タイ法人及びインド法人の代表などを歴任し、同社の海外の重要拠点の黒字化に成功した経験をもつ木村幸広氏。ペットビジネスへの可能性を感じ、ユニ・チャーム退職後はアニマルヘルステックカンパニーのA'ALDA Pte. Ltd.(以下:アルダ)でCMOを務めている。

 アルダは、「Pet to Partner ~人とペットが幸せに暮らせる社会をつくる」をパーパスに2019年設立以来、アジア各国で事業を展開するグローバルカンパニーだ。「国境は地図の上にない、心の中にある」連載の第12回では、木村氏の視点から同社のマーケティングについて語られた。

 そして今回、アルダ CEOである奥田昌道氏と木村氏の対談を実施。アルダのパーパスに込められた想いや起業のきっかけ、ゼロから始めたインドでの挑戦と成功体験に加え、日本の獣医療が抱える課題と解決策、これからの社会にアルダがどう関わっていくかなど、社会の変化を敏感に察知し、迅速に行動するマーケティングについて詳しく聞いた。
 

どん底から幸せな感情をくれたペットに恩返しをしたい


木村 まずは奥田さんから、簡単にアルダの紹介をお願いします。

奥田 実はアルダは、ペット専門メディア「PECO」をルーツに持ちます。2019年4月にPECOのアジア全体の統括法人として「PECO ASIA」という会社を創業、その後にMBOによる企業再編を経て2020年8月にアルダと名前を変えて独立し、現在に至ります。シンガポールに本社を置き、日本、インド、タイ、ベトナムに進出しています。
 
アルダ 代表取締役
奥田 昌道 氏

 学生時代、自身が愛犬に救われた経験から、動物が人に与える影響の大きさに感銘を受ける。一方で、ペット業界には課題も多く、幸せになれない動物も多いと感じ、ペット業界に挑戦するベンチャー企業である株式会社PECOに参画。動画メディア事業やペット向け商材開発などに携わったのち、同社、海外子会社の代表を歴任。自身も10頭の動物と暮らす当事者として、人と動物が幸せに暮らせる社会の実現を目指し、2019年4月にシンガポールで A’ALDA Pte. Ltd,.を創業。

主な事業は2つです。ひとつが動物病院のチェーン展開で、日本とインドとベトナムの3カ国で動物病院を100%子会社化して、50病院ほど経営しています。もうひとつは、動物病院向けのオールインワンSaaS事業です。動物病院の経営を通じて見えてくる共通課題をテクノロジーの力を使って解決するプロダクトを、2024年1月にローンチしました。これはインドで開発しています。

アルダは、ペット領域におけるスタートアップという位置づけではありますが、マルチプロダクトでマルチナショナル(各国の現地法人が独自の経営方針や経営資源で事業を運営し、経営を行う企業の連合体)に展開するなど、スタートアップの定説からは外れる部分もあります。そういった意味では、スタートアップらしくない経営をしている会社です。

木村 今回はアルダのパーパスである「Pet to Partner~人とペットが幸せに暮らせる社会をつくる」に迫ることで、マーケティングにおいて、なぜパーパスやビジョンが大切かを考えたいと思います。奥田さんはなぜペットビジネスを始めたのでしょうか。

奥田 私は、幼少期からプロ野球選手になりたいと思い、必死に野球に打ち込んできました。ところが、大学1年生のとき、選手生命を絶たれる大怪我をしたのです。その影響もあり、落ち込んでいた私を心配した家族が、あるとき「でん」という名前の黒のラブラドールを連れて帰ってきました。それが、私とペットとのはじめての出会いでした。
  

でんとの出会いにより、ペットは特別な存在だと実感しました。人間関係はGIVE & TAKE(ギブアンドテイク)だとよく言いますが、ペットと人間の場合、散歩したり、フードをあげたり、トイレの世話をしたりと、物理的なギブは人間からしかすることはできません。しかし、ペットは人間に対して幸せな感情をギブしてくれます。この関係性に、私は救われたのです。

この経験から、将来的にペット産業に恩返しをしたいと思うようになり、業界について調べたり、保護犬のシェルターでボランティアに参加したりしました。それらは尊い活動だと感じた一方で、いまの状態では根本的な課題解決はできないと感じました。そこで、新しい企業体をつくり業界に影響力を持ち、その構造自体を変えていきたいと思ったことがターニングポイントになりました。

そして、大学3年生のときに創業メンバーとしてPECOに加わり、一度就職をしたのですが、すぐにPECOに出戻って。事業を伸ばしたうえで海外展開に向けて独立して、現在のアルダを設立しました。

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