マーケターズ・ロード 鈴木康弘 #06

鈴木敏文、孫正義、井上雅博、北尾吉孝 - 恩師から教わったこと、これからの人に伝えたいこと【デジタルシフトウェーブ 鈴木康弘】

前回の記事:
セブン&アイ オムニチャネル戦略発表から退任までの1000日間と、独立【鈴木康弘】

人との出会いが自分をつくった

 これまでのキャリアを振り返ると、良かったことも悪かったこともありましたが、全てが勉強になったと思います。

 そして、その時々に恩師と呼べる人との出会いがありました。まず一番影響を受けたのは、父でもある鈴木敏文。そして、ソフトバンクに入社してから出会った孫正義さん、故 井上雅博さん、北尾吉孝さんにも大きな影響を受けました。この方々は、私にとって恩師とも呼べる方々です。

 鈴木敏文から教わったことは、3つあると考えています。

 1つ目は、学生のときに聞いたことです。普段、家ではほとんど喋らない父が、何千人もの前で流暢に話す姿を見て、ふと「緊張しないのだろうか?」と疑問に思い、尋ねてみたのです。

 すると返ってきたのは、「知らないことを話そうとするから緊張するんだ」という言葉。たしかに、カッコつけて横文字を使おうとしたりすると、何だか緊張してしまう気がする。

 知らないことは喋らない、は僕のポリシーになっています。

 2つ目は、富士通時代に言われた「石の上にも三年」です。

 そして3つ目は、セブン&アイ時代に聞いたことです。大企業のトップを務める上で大事にしている、マネジメントやリーダーシップの極意は何か。父の答えは、「自らの頭で考え、率先垂範で行動する」と「目の前のことを一生懸命やる」の2つだけでした。



 当たり前のことに思えますが、目の前のことをきちんとできない人間に、先のことをできるはずがないということなのだろうと思います。

 全然、喋らない人ですが、こんなふうに僕の人生の節目節目では良いことを言ってくれているんですよ。もうちょっと丁寧に説明してくれればいいのにとも思うけれど、自分なりに意味を考えることに意義があるのでしょうね。
 

孫正義から教わった経営者としての心構え

 また、孫さんと仕事ができたことも、僕のキャリアの中で良かったと思えることのひとつです。孫さんから教わったことは、2つあると思っています。

 1つ目は、「夢をあきらめずに追い続ける」ことです。孫さんは初めて出会った1996年から「デジタル情報革命を起こしたい」と言っていました。その夢を今も変わらず追い続けていることです。

 でも、失敗をたくさんしていますよね、孫さんって。失敗するたびに立ち上がって、前に進んでいるから、周りから見ると失敗しているように見えないんですよね。あのへこたれなさと言うか、往生際の悪さと言うか(笑)……すごいですよね、心から尊敬しています。

 2つ目は、「経営者の覚悟」です。ソフトバンク時代に会社を立ち上げたとき、「人は自分でみつけてこい」「社長は頭から血が出るほど考えるものだ」など、多くの厳しいご指導をいただきました。30代前半に厳しい環境をつくってくれたことに、本当に感謝しています。

井上雅博から教わった、シンプルな思考

 元 ヤフーの社長だった、故 井上雅博さんからも、たくさんのことを教わりました。イー・ショッピング・ブックス時代は毎週のようにお会いをして、話をする機会がありました。

 経営についての悩みを相談すると、いつもシンプルな答えが返ってきました。例えば当時、コールセンターを外注していたのですが、コスト負担が大きいという悩みを相談したところ「自分たちで、やればいいじゃん」というシンプル答え。

 実際に取り組んでみると、コストだけでなく、コミュニケーションのロスが減り、サービス向上にもつながりました。このように、いつも井上さんは、シンプルな発想をお持ちで、僕自身「ビジネスはシンプルに考えるということ」を心掛けるようになりました。

北尾吉孝から教わった、信頼の大切さ

 SBIホールディングス社長の北尾吉孝さんからも大きな影響を受けました。

 それは、「信頼」ということです。

 イー・ショッピング・ブックスを立上げて5年が経ち、100億円を突破しました。あるとき、北尾さんから電話があり、恐る恐る訪ねていきました。

 「ご無沙汰しております」と社長室に入った瞬間、「俺は君を信じる!」と言われました。

 「えっ!」と戸惑う私に、「覚えているよ。君が5年で100億円を達成するとソフトバンクの役員会で言ったことを。人が人に信頼されるには、言ったことをやる(有言実行)ことだ。だから、私は君を信じるんだ」と言われました。

 これ以降、人が人に信頼されるには、有言実行だと強く思うようになりました。
 

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