国境は地図の上にない、心の中にある #04

紙おむつ界の革命児「ムーニーマン」の開発秘話と、マーケティング思考の根本【元ユニ・チャーム 木村幸広】

前回の記事:
「国境は地図の上にない、心の中にある」 元ユニ・チャームグローバルマーケティング本部長の心得
  ユニ・チャームで30年以上に渡りマーケティングに携わり、タイ法人及びインド法人の代表などを歴任し、同社の海外の重要拠点の黒字化に成功した経験をもつ木村幸広氏。この連載では、世界で活躍するグローバルマーケターになるまでの軌跡を辿りながら、グローバルで成功する要件と、マーケティングに重要な消費者視点などを紐解いていく。第4回は、同氏が紙おむつブランドのブランドマネージャーを務めていたときに、赤ちゃんの数が減少しカテゴリ内の競争が激しくなる中、シェアトップを獲得した画期的な商品開発の秘話とその背景にあった思考法、世の中のトレンドに注目することの重要性を紹介する。
 

ムーニーマン 大ヒットの3つのポイント

 
① 観察を通して、お客さまのインサイトを捉えた

② 全く新しいコンセプトを世の中に打ち出した

③ コンセプトを実現できる機能を持ったプロダクトを開発した。
 

店頭POPを書きながら、マーケティングの思考法を学ぶ


 ムーニーマンの大ヒットについて、お伝えするために、まずは私のアシスタント時代のお話をします。第2回でも話したように、私は30歳で営業からマーケティング部門に異動しました。しかし、営業の仕事が染みついていたため、マーケティングの考え方を身につけることに大変、苦労しました。

 そもそも異動したばかりのころは、考え方はもとより、マーケティングで使われる言葉の意味も分かりませんでした。ターゲティングやポジショニング、パーセプションなど…とにかく横文字が多くて覚えられず、私よりも若い20代の社員にひたすら尋ねていました。正直、プライドもあって良い気持ちではありませんでしたが、分からないことは仕方ないと開き直り、最初の1年間は多くの人に聞いて回っていました。実際に分かったふりをするよりも、分からないことは聞いた方が早いので、私が新人を指導するときは、同じように「1年間はとにかく人に聞きましょう」とアドバイスしています。



 当時、私が分からないことを尋ねたときは、みんなきちんと教えてくれたので感謝しています。上司にあたるブランドマネージャーも、残業しながらも丁寧に教えてくれたので、1年間はとにかく貪欲に勉強しました。そうしているうちに、少しずつマーケティングの実務を理解できるようになっていきました。

 ただ、営業の経験が長かったことで、身についてしまった消費者よりも小売・流通というフィルターで先に商品を見てしまう癖はすぐには直りませんでした。ただ、営業時代に消費者と直接的に接点を持つ機会もあったので、そうした経験を思い出しながら、小売・流通の向こう側にいる「お客さま」に目を向けていくようにしました。

 それは、私が担当していた商品が思うように伸びていなかったため、「どうすればもっとお客さまに選んでもらえるのか」と、必死に考えた結果でもあったように思います。たとえば、お客さまにとって自社と競合のイメージはどう違うのか、なぜイメージに違いが生まれるのか、ということをお客さまの立場で時系列で考えていくと、何となく課題感が浮かび上がってきます。それに対する解決策を上司に提案したり、店頭のPOPに落とし込んだりして工夫していきました。



 当時の私は、ただのアシスタントでした。そのため、店頭のPOPなど投資額の少ない施策を担当していました。その1枚のPOPに自分のアイデアを次々と反映し、それに対するお客さまや広告会社、メンバーなどの反応を受けて、日々勉強と改善を重ねていきましたね。ときには、たった1枚のPOPでお客さまが動くという経験をしながら、仮説・分析・構成・アウトプットの修正を少しずつ自分の中でつなげていきました。

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