リテールアジェンダ2019 レポート #04
「リテールはマーケの勉強をせず、メーカーは現場を知らない」 プロフェッショナル4人が語り合う両者の連携
国内外のリテールのマーケターとメーカーのマーケターをつなぎ、一気通貫のマーケティングを実現するためのカンファレンス「リテールアジェンダ」が2019年12月、大磯プリンスホテルで開催。
オープニングキーノートに登壇したのは、リテール/メーカー/パートナーと、異なる立場でトップマーケターとして活躍する4人。顧客に新たな価値を提供するために、リテールとメーカーはどのように連携できるのか。また、デジタルシフトが進む中、リテールとメーカーが共に生き残っていくための方策とは。前編に続き、リテールマーケティングの実務家が集結して、未来の可能性を探ったセッションの後編をお届けする。
オープニングキーノートに登壇したのは、リテール/メーカー/パートナーと、異なる立場でトップマーケターとして活躍する4人。顧客に新たな価値を提供するために、リテールとメーカーはどのように連携できるのか。また、デジタルシフトが進む中、リテールとメーカーが共に生き残っていくための方策とは。前編に続き、リテールマーケティングの実務家が集結して、未来の可能性を探ったセッションの後編をお届けする。
「利害の不一致」が、リテールとメーカーの連携を阻んでいる
植野 「メーカーとリテールの連携には、どのような可能性があるか?」を考えると、商品を一緒につくる。売り場を一緒につくる。売り場をより盛り上げる企画を考える、といったことが挙げられる。ここに異存のある方はほとんどいらっしゃらないと思います。
しかし、それがなぜ実現できないのか。ハードルとなっている要因は何か。先に言ってしまうと、リテールとメーカーは、それぞれ追っているものが違うからなんですよね。だからどうしても対立構造になりやすく、「一緒に何ができるか」という発想や、「お客さまを見る」という視点が欠如してしまうのではないでしょうか。
植野大輔 Daisuke Ueno
ファミリーマート デジタル戦略部長 三菱商事(情報産業グループ)に入社。三菱商事在籍中、CVS事業にも従事。その後、ボストンコンサルティンググループ(BCG)を経て、2017年1月ファミリーマート改革推進室長に就任、マーケティング本部長を歴任後、2018年11月よりデジタル戦略室長に就任。2019年3月より現職。「ファミペイ」など自社デジタル顧客基盤をベースとしたデジタル戦略を手掛ける。
ファミリーマート デジタル戦略部長 三菱商事(情報産業グループ)に入社。三菱商事在籍中、CVS事業にも従事。その後、ボストンコンサルティンググループ(BCG)を経て、2017年1月ファミリーマート改革推進室長に就任、マーケティング本部長を歴任後、2018年11月よりデジタル戦略室長に就任。2019年3月より現職。「ファミペイ」など自社デジタル顧客基盤をベースとしたデジタル戦略を手掛ける。
鈴木 まさに、リテールとメーカーでは考えていることが違いますよね。リテールの立場から言うと、メーカーはどこも口を揃えて「うちの商品が最高です」と言う。それをすべて聞いていたら、とてもじゃないけれど店頭に並べきれません。一方、メーカーの立場から言うと、リテールはいろいろと要求過多なところがある。両者とも、主語から「お客さま」が抜けてしまっているんですよね。
商品ではなくカテゴリを語るにも、「お客さまを見る」ということが不可欠だと思います。というのも、カテゴリは、お客さまの生活に合わせて進化させていかなければならないからです。
小売り企業各社の歴史が長くなってきたこともあり、昨今「かつて上手くいっていたことの踏襲」に終始しているケースが非常に多いなと感じています。お客さまの変化に合わせて、リテールも大きく変わらなければいけないし、それに合わせてメーカーも変わらなければならない。繰り返しですが、もう一度一緒にお客さまを見て、バンバン議論したほうがいいと思います。
鈴木康弘 Yasuhiro Suzuki
デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長 1987年、富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。1996年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に従事。ネット書籍販売会社イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立、代表取締役に就任。2006年資本移動によりセブン&アイHLDGS.グループ傘下に入り、2014年にセブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任、グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。2015年取締役執行役員CIOに就任、グループシステムの改革に着手し、デジタルシフトの骨格を作り上げる。2016年12月に同社を退社。2017年3月にデジタルシフトウェーブを設立、代表取締役社長に就任。多くのデジタルシフトを目指す企業を支援している。
デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長 1987年、富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。1996年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に従事。ネット書籍販売会社イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立、代表取締役に就任。2006年資本移動によりセブン&アイHLDGS.グループ傘下に入り、2014年にセブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任、グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。2015年取締役執行役員CIOに就任、グループシステムの改革に着手し、デジタルシフトの骨格を作り上げる。2016年12月に同社を退社。2017年3月にデジタルシフトウェーブを設立、代表取締役社長に就任。多くのデジタルシフトを目指す企業を支援している。
植野 メーカーは、他社商品から自社商品へのブランドスイッチを狙いたい。しかし、リテールはそういう力学では動いておらず、棚全体の売上を伸ばすことを考えている。そこでリテールが何を求めるかと言うと差益です。要するに、「原価が安いメーカーはどこか?」ばかりを見る視野狭窄に陥りやすいのです。両者の理解の落としどころを見つける調整弁として、値引き原資や流通対策費とかが使われているのが現実ですよね。
富永 お客さまと向き合うとはどういうことか。購買の現場でとるべきデータとはどういうものか。リテールとメーカーでそういう根本的な話をしなければ、対立構造はいつまでも解消されないと思います。
リテールとメーカーを比較したとき、マーケティングや顧客志向について体系的に勉強している人が多いのは圧倒的にメーカーです。リテールはそれよりも、目の前の現場の状況にどう対応するかという思想が強く、メーカーを“知恵袋”として使う傾向があります。その結果、何が起こるか。マーケティングの発想を持たないリテールは、各メーカーが持ってきた三者三様のデータに振り回されて、顧客体験の向上につながらない、最悪の場合、顧客体験を損なうような売り場づくりをしてしまうのです。
「来月うちのブランドはテレビCMを3000GRP投下しますから、ぜひエンドキャップで展開しましょう」というような前時代的な提案も、いまだに横行していたりしますね。リテールの中で、GRPというコンテンツがいつまでも水戸黄門の印籠のように君臨し続けているのは、よろしくないなと思います。
富永朋信 Tomonobu Tominaga
イトーヨーカ堂 顧問 マーケティング関連の職務を歴任して現在9社目。CMOは4社目。株式会社イトーヨーカ堂 顧問、株式会社セルム 顧問、厚生労働省 年金局広報検討委員、内閣政府広報アドバイザー、マーケターキャリア協会理事、日経クロストレンドアドバイザリーボード。
イトーヨーカ堂 顧問 マーケティング関連の職務を歴任して現在9社目。CMOは4社目。株式会社イトーヨーカ堂 顧問、株式会社セルム 顧問、厚生労働省 年金局広報検討委員、内閣政府広報アドバイザー、マーケターキャリア協会理事、日経クロストレンドアドバイザリーボード。
植野 メーカーは、よく勉強されているという話が出ましたが。
中村 うーん……。リテールさんと比べると、教育体制や情報収集の仕組みができあがっているのかもしれませんが、それが本当に有益に活用されているどうかは、ちょっと疑問ですね。
実際、現状やっていることで「それって本当にマーケティングなの?」と思うことが、結構あるんですよ。例えば、新商品を出して売上を上積みするという従来の考え方だと、テレビCMの出稿費を含めて10億単位のお金があっという間に吹っ飛んでいきます。そうやって10億円を繰り返し投下することだけがマーケティングなのかというと、そうではないはず。あらゆる市場が飽和状態で、人口も減少の一途をたどる中、新しい領域に進出することばかりにお金を使っていても、そのうち行き詰まることはわかりきっています。
中村直人 Naohito Nakamura
サントリー酒類 営業推進本部 部長 1992年サントリー(現サントリーホールディングス)入社。全国の営業戦略立案・推進と流通企業とのプラットフォーム構築を統括・推進。デジタルイノベーションをフックに営業自体のイノベーションを目指す。
サントリー酒類 営業推進本部 部長 1992年サントリー(現サントリーホールディングス)入社。全国の営業戦略立案・推進と流通企業とのプラットフォーム構築を統括・推進。デジタルイノベーションをフックに営業自体のイノベーションを目指す。
であれば、既存顧客にいかにファンになっていただいて、いかに頻繁に通っていただくか・買っていただくかということに、もっと目を向けていったほうがいいケースもあります。数億円単位のお金をかけて宣伝するより、ずっと買い続けてくれるファンに何らか還元したほうが、さらに継続的に買ってもらえるかもしれません。
そこでは、リテールとメーカーが現場で得たデータを共有しながら、誰がロイヤルユーザーなのかを見極めて共通用語とし、一緒になって顧客体験を考え、つくり上げる必要があると思います。