マーケティングは、どこまで人間を理解できるのか #21

消費者はなぜ決断を先延ばしにするのか、最新脳科学から推論する対策とは?

 

先延ばしせずに決めるためには、何が助けになりそうか


 予測誤差の最小化のための戦略が大きく2通りあるなら、マーケティング施策も2つの方向から考えられそうです。知覚的推論と能動的推論のどちらから攻略するか、それぞれみていきましょう。

■知覚的推論からのアプローチ

 オファーの時点における予測信号が、より精度が高く、よりポジティブな方向であれば、入力信号との誤差にもとづいて更新されるモデルも、その予測のほうに引っ張られるでしょう。ひいては決断に近づける可能性が高まりそうです。

 そのためには、当然ながらより好ましいオファーが出せるなら強いですが、商品やサービスの内容そのものを変えることは、マーケティング関係者にできることの範疇を超えているかもしれません。では、より好ましく見える・思える仕方を工夫するのはどうでしょうか。そんなの普段やっていることでしょ、と反論されそうですが、ここで焦点を当てている内受容感覚の効果がしっかり考慮されているか要確認です。

 内受容感覚にもとづく根源的な自然物としての感情は、接近・回避動機づけのような、無意識的なレベルの反応です(前回前々回の記事を参照)。そこに影響するのは、生き物としての本能に訴えるような刺激です。なのに、機能やスペックの説明をより詳細にするとか、より分かりやすくするなどに重きを置きすぎていませんか? 説得や理解も大事ですが、今の文脈とは、また異なる話です。

 旅行のオファーなら、細かい旅程や競合との比較よりは、パッと目を引く食事やアクティビティの映像・画像でしょう。また、ひとりよりもグループのイメージのほうがよいでしょうし、明確な表情が分かるのが望ましいでしょう。読者のみなさんの商材やカテゴリーでは、どうでしょうか。

 とはいえ、これもいつも言っていることですよね。繰り返しばかりですみません。

 もう少し今回のコンテクストに忠実なところで言うと、不確実性やそこからくる不安の軽減につながるようにオファーするのはどうでしょうか。旅行関係ならキャンセル料無しなどはそれにつながりそうです。たしかに、よく見られますね。ただ、このような方向のプロモーションは過当競争になりがちで、業界全体として中長期的に不健全な結果につながるリスクも高そうです。

 そこでやはり、そもそもの感覚信号の誤差の原因を追究し、その心理的要因に効果的にアプローチしたいところです。今回は実験場面ですから、試験結果が分かっているかどうかという要因のみに焦点が当たっていますが、通常なら、複数の要因が影響するし全ての消費者に共通しているわけでもありません。この要因を探って独自の効果的な施策につなげるには、結局今でもセグメンテーションやターゲティングの戦略、そしてデプスインタビューなど質的なアプローチによる深掘りは有効なのだと、個人的には思っています。

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