ニュースと体験から読み解くリテール未来像 #52

北陸の好調ドラッグストア2社は、小売業のマーケティングに多くの示唆を与えてくれる

前回の記事:
生成AIの普及で「EC売上の半分がチャットボットから」という未来が来るかもしれない
 前回(ChatGPT時代の生成AIは、小売業のビジネスをどう変えるのか?)は、テクノロジーに寄った話を書きました。そこで今回は、打って変わって実店舗に寄った話を書きます。デジタルが出てくるのは、ほんの少しです。
 

石川県金沢市・加賀市の小売業視察


 先日、石川県金沢市と加賀市の小売業を視察する機会がありました。能登半島への観光は何度も行っていますが、両市に行くのは20年ぶりでした。

 その主目的は、ドラッグストア業界でも好調な食品強化型ドラッグストアのゲンキーとアオキを自分の目で見て比較するためでした。今回は、そのレポートです。ちなみに、ドラッグストアだけでなく、地場スーパーマーケットも視察しました。このレポートは次回お届けする予定です。
 

徹底した標準化と平準化によるゲンキーの効率化


 ゲンキーは食品構成比が7割弱あるドラッグストアチェーンです。標準化された店舗レイアウトとオペレーションが特徴です。

 近年は、大型店をコンパクトな標準店舗にリプレイスするなどして、坪あたりの収益効率を高めています。日本の小売業でゲンキーほど売場面積効率を重視しているチェーンはほとんどありません。現在、坪当たり経費高目標を20万円未満に設定し、22年6月期実績で18.6万円とクリアしています。

 また、坪当たり売上高目標は130万円以上でしたが、113.5万円で未達でした。そのため坪当たり営業利益高も目標6万円以上に対して、4.2万円と未達です。

 決算説明会資料によると、この売上目標をクリアする手段を「ディスカウントによって」と明言しており、「標準化によるコスト削減効果を値下げ原資にする→値下げにより売上高を上げる」という戦略が明確です。22年6月期の粗利益率は20.0%でしたが、ディスカウント戦略の深耕により、さらに引き下げるというのですから徹底しています。


ゲンキー 白山町店 2023年6月 (撮影:郡司昇)

 精肉は自社のプロセスセンターで加工されたものを使用し、家庭料理でよく使われる部位を食品スーパーよりもリーズナブルな価格で提供しています。私が視察した時は、「国産豚肉小間切り100g」 99円(税抜)、「国産若鶏もも肉100g」 97円(税抜)で「毎日特価」というラベルが貼られていました。効率化を重視したチェーンなので、当然EDLP(Everyday Low Price)です。

 ゲンキーが特徴的なのは、在庫管理も本部でやっており、店舗で発注作業をしていない点です。効率化はさまざまな箇所に見ることができます。一例として、プライスカードに店舗での陳列位置が印刷されており、その通りに陳列されていることが挙げられます。連載第29回「九州の雄コスモスは、首都圏ドラッグストアに勝てるのか」で書いた通り、コスモス同様に陳列位置、フェイス数(Fで表現)が各商品で決められており、実際にその通りに並んでいるわけです。

 これは棚位置を本部で管理できていることを意味し、POS実績で調整する指示もできます。全店舗のデータが集まることで、標準化された強い棚割りにつながります。本部が考えることに集中し、店舗が実行に集中、そして出た結果に基づいて本部が検証することでPDCAを回すことができます。

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