リテールメディアコンソーシアム #03
日本の「リテールメディア」の実態と可能性とは?【リテールメディアコンソーシアム座談会・中編】
リテールメディアは活用せざるを得ない日本の現状
中村 杉浦さんがおっしゃった通り、リアルな購買データやアプリなどのタッチポイントを通して取得できるログは、圧倒的に小売・流通と比べてメーカー側は少ないので、メーカーが独自にLTV(顧客生涯価値)を可視化することはかなり難しいと思います。LTVをどう定量的、定期的、継続的に可視化するかが一番の課題なんです。
サントリー 支社長 リテールAI推進チーム シニアリーダー
中村 直人 氏
1992年入社、2011年営業推進本部、2020年広域営業本部第2支社長、2023年データ戦略部部長兼務。
中村 直人 氏
1992年入社、2011年営業推進本部、2020年広域営業本部第2支社長、2023年データ戦略部部長兼務。
前編で、コンバージョンをどう捉えるかが課題だと言いましたが、メーカーはリテールメディアに入る前にまずLTVの定義づけから行っていく必要があると思っています。定義づけをしたら、次にそのLTVをいかに定期的に可視化するかという壁にぶつかります。
また、現在日本のEC比率は欧米と比べてまだ低い状況にあり、圧倒的にリアル流通の割合が高いです。それを考えると、ますますリテールメディアを活用せざるを得ない状況に入っていると思うんです。
島川 当社では10年ほど前から、D2Cに注力していました。早いタイミングで着手したおかげで、数十万人の定期購入者のLTVを可視化することができています。しかしながら、デジタル上だけでのサブスク集客には限界がくることを途中から感じていました。Web広告を出し続けるので費用もかかりますし、継続率も加味すると投資対効果は微妙なところです。
それよりも「たまたま友人の家に行ってネスカフェを飲ませてもらったらとても美味しかった」や「カフェで見たこのコーヒーメーカーがかわいかった」といった理由のほうが、購買意欲を掻き立てることも多いのです。
サブスクリプションモデルでは、離脱する人は一律でNGと判断しがちです。しかし、実は定期購入をやめた後を追うと、多くの人が飲み続けていることもあります。コーヒーメーカーを持っているから、店舗に行って購入している。何らかのライフイベントがあったり、ライフステージの変化があったりしたときに、ずっとサブスクするのはしんどいと思うタイミングなどはあるはずです。ただ、商品自体は気に入って不定期でも飲み続けてくれる人は少なくありません。それならば、必ずしもサブスクに縛り付ける必要はないのではないかと思います。
実際に、店舗で購入するお客さまでロイヤリティが高い人はたくさんいます。そういう人たちのことを知るためにも、リテーラーさんとの協業にはいろいろな可能性が出てくると考えています。
八木 自社商品がどのような買い方をされているのかに加えて、リテーラーさんの中で周辺商品も含めてどのように買われているのかなどデータの行き来ができると、お客さまの理解が深まりメーカーさん側でお客さまを育成する取り組みが高度化できますよね。
また、リテーラーの中でメーカーにとって接触したいお客さまがどこにどれだけいるかわかれば、商品の販促活動の中で、どのようにリテールメディアを組み込むか判断しやすくなります。そうなると、お客さまへのメーカー施策、リテーラー施策に対する予算投下が立体的になります。「お客さまを理解できるからこそ、メーカーにとってもリテーラーにとっても大切なお客さまが増えていく」という流れになるとすごくいいなと思います。
※後編 リテールメディアの取り組みは、働き方、文化、人材育成のすべてに紐づく【リテールメディアコンソーシアム座談会・後編】に続く
- 他の連載記事:
- リテールメディアコンソーシアム の記事一覧