リテールメディアコンソーシアム #04

リテールメディアの取り組みは、働き方、文化、人材育成のすべてに紐づく【リテールメディアコンソーシアム座談会・後編】

前回の記事:
日本の「リテールメディア」の実態と可能性とは?【リテールメディアコンソーシアム座談会・中編】
 マーケティング専門Webメディアの「Agenda note」は2023年12月1日、リテールメディアの研究組織「リテールメディアコンソーシアム(Retail Media Consortium)」を設立した。本コンソーシアムは、リテールメディアのあり方を規定し、新たな基準を設定するプラットフォームとして機能することを目指す。そして、日本独自のリテールメディアを定義し、最新事例とその効果の発信などを通して、消費者に新しい価値を提供するリテールメディアの創出を目的とした取り組みとなる。

 今回、リテールメディアをテーマに、リテーラー、メーカー、広告会社でマーケティングやデジタル部門を管掌するサントリー 支社長 リテールAI推進チーム シニアリーダーの中村直人氏、ネスレ日本 常務執行役員 デジタル&Eコマース 本部長 兼 新規ビジネス開発部長の島川基氏、ライオン ビジネス開発センター エクスペリエンスデザイン部長の大村和顕氏、セブン-イレブン・ジャパン マーケティング本部 デジタルサービス部 兼 リテールメディア推進部 総括マネジャーの杉浦克樹氏、電通コンサルティング 代表取締役 社長執行役員/シニアパートナーの八木克全氏の5人が、現状の各社の取り組みや課題、日本と海外の違いなどを語り合う座談会を実施した。

 本稿ではその議論の様子を前編、中編、後編の3回でお届けする。前編では、リテールメディアの定義の曖昧さやコンバージョンの置き方、営業と広告宣伝の考え方の違いに基づく懸念点について議論した。中編では、具体的な事例から、リテールメディアの活用可能性について議論した。後編では、働き方や各社の文化、人材育成の問題など、さまざまな領域に紐づいているリテールメディアについて議論された。
  
(左から)電通コンサルティング 八木克全氏、サントリー 中村直人氏、セブン-イレブン・ジャパン 杉浦克樹氏、ネスレ日本 島川基氏、ライオン 大村和顕氏
 

リテールメディアに立ちはだかる社内理解と人材や社内文化の壁


杉浦 我々セブン-イレブンのようなリテール側としての感覚でも1年ほど前までは、まだ「リテールメディアってこうだよね」という話をしているだけでよかったと思います。しかし、いよいよ本当にサービスとして実践事例が増えてくると、「こんな事例もあったよね」で終わってしまわないかという危機感が強くなってきました。そうならないために、いかにサービスを磨き上げれば芯を食ったリテールメディアになるのかをずっと考えています。
 
セブン-イレブン・ジャパン
マーケティング本部 デジタルサービス部 兼 リテールメディア推進部 総括マネジャー
杉浦 克樹氏 氏

 1998年セブン-イレブン・ジャパン入社。長野・山梨、西東京にて加盟店を支援する現場でゾーンマネジャーを経験し、2018年からセブン&アイ・ホールディングスで新規事業会社の立ち上げを実施。21年3月よりセブン-イレブン・ジャパンのデジタル販売促進部総括マネジャーとしてセブン-イレブンアプリの責任者を経て、22年9月よりリテールメディア推進部総括マネジャーとして、リテールメディアの立ち上げ、戦略企画、実行の責任者を担当。24年3月よりデジタルサービス部 総括マネジャーを兼任。

島川 ネスレ日本のようなメーカーとしては、リサーチとインサイト周りのデータが得られると嬉しいのは間違いないですよね。ターゲットに対するデプスインタビューもそうですし、データクリーンルーム(プラットフォーム企業が個人のプライバシーに配慮する形で顧客や消費者のデータ共有・分析を行う、新たな広告効果可視化の仕組み)のように、購入と合わせて分析し、フィードバックをもらえると広告を出稿する側は嬉しいと思います。

大村 その辺りを本格的に実装しようとすると、システム的には負担がかかるかもしれません。しかし、LTV(顧客生涯価値)の部分だけでいうと、広告を出稿して定期購入した人のID-POSを提供いただき、リテーラーさんと一緒に見ていくだけでも、ある程度の分析はできる可能性がありますよね。その場合、そんなに大きな投資にはならないと思います。
 
ライオン ビジネス開発センター エクスペリエンスデザイン部長
大村 和顕 氏

 ライオン ビジネス開発センター エクスペリエンスデザイン部長。アイ・エム・ジェイにて、さまざまなナショナルクライアントのデジタル戦略策定およびWEB・アプリケーションの開発をプロデュースした後、2017年にライオンへ入社。2020年1月より各ブランドおよび新規ビジネスにおけるコミュニケーションの責任者として、ビジネス開発センター エクスペリエンスデザインを率いている。

杉浦 そもそもリテールとしては、シンプルな分析でも自前だけではなかなか回らないという実態もあると思っています。

また、メーカーさんと一緒に分析することの重要性を社内で真に理解してもらうにはまだハードルがあると思っています。リテール側がリテールメディアを展開する上で、社内の理解を得るというプロセスは横に置けないくらい大事なことです。

島川 人材とリテラシーの問題は、一番ハードルが高いですね。これはお金があっても解決できない可能性があるので。しかし、そういった部分を小分けにして、外部に任せているうちに、組織全体で見たら何が起きているかわからない状況になってしまっている会社は多いと思います。
 
ネスレ日本 常務執行役員 デジタル&Eコマース 本部長 兼 新規ビジネス開発部長
島川 基氏 氏

  ネスレ日本に入社後、セールスおよび企画部門の経験を経て、飲料事業本部にてブランドマーケティングを担当。複数のカテゴリーを経験し、2019年までレギュラーソリュブルコーヒービジネス部 部長として、ネスカフェに加えネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ等のコーヒーメーカーを含めた基幹ビジネスを担当するとともに、チャネルを横断しネスカフェブランド全体のマーケティング施策を立案実行。2020年よりネスレスイス本社にてZoneAOAアシスタントリージョナルマネージャーとして各マーケットの経営企画支援を行い、2022年1月より日本に戻り現職。D2C領域に加えネスレ日本のEコマース全般を統括、また顧客視点のデジタルCXの実現に向け、部門を横断したイニシアチブをリードしている。

日本企業は現場のオペレーション力が圧倒的に高いです。個人的な見解ではありますが、ロジカルシンキングが弱いので、きちんと仕組みをつくりあげることが苦手である一方、それを現場力ですべてカバーしてしまうんです。

杉浦 本当にそうだと思います。国内のセブン-イレブン店舗でも発注作業などにAIを組み込んで取り組んでいたりしますが、やはり現場での長年の知識や経験則に基づいたお力を発揮されるオーナーさんが多くいらっしゃいます。

一方で、米国ではデジタルに資する取り組みに長けているため、ものすごくシンプルに仕組みやシステム化を進めスピーディーに変更する為、その切り替えは日本と比較して早い印象です。

島川 リテールメディアにチャレンジする裏側にある課題は大きいと思います。働き方、文化、人材育成などのすべてに紐づいてくるので、面白いテーマだと改めて感じますね。

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