日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #07

広告の常識からは、前代未聞。ラベルを剥がす、サントリー 伊右衛門テレビCMの狙い

前回の記事:
サントリー「話そう。」 自粛生活の中、ブランドの存在意義を示したお手本
 私は長年、多くの広告コミュニケーションの海外事例を紹介、その分析に努めているのですが、この連載では、いつもとはある意味では逆に、まず日本の話題作に目を向けて解説し、そのうえで、その意図や施策の在り方が、海外のどんな潮流と関連しているのかについて考えていこうと思います。実際、日本で話題になった事例の中には、海外のトレンドの延長線上にあるものが、少なからず存在しています。今回は、その第7回です。
 

“ラベルを剥がす”行為は、テレビCMとしては異色


 商品の名前、ロゴ、パッケージ、デザインは、ブランドにとって最重要な要素のひとつです。飲料で言えば、それらに付随するイメージと味が相まって、その商品固有の体験をつくり、その総体を我われは購入しているというわけです。

 ビール好きを自認する人を集めて、グラスに注いだ各社のビールを飲み比べてもらうと、ブランドを当てることが出来る人はとても少ないと言います。実は、私自身もこの実験を経験したことがあるのですが(そしてけっこうなビール好きなのですが)、なかなか当てることが出来ませんでした。そのときは、我われは、缶からグラスに注ぐ時のパッケージのイメージも含めて味わっているのだな、と実感しました。

 現代の広告の目的のかなりの部分は、ブランディングです。成分や効能の細かい部分はネットで調べれば分かるので、メディアを使った広告では、ブランドを覚えてもらい良いイメージを抱いてもらい、生活者との“関係構築”を図ることが重要になります。

 だから、新しい伊右衛門のテレビCMで、芦田愛菜ちゃん扮する女子高生がペットボトルのラベルを剥がすシーンを見て、「おっ!」と思いました。なおかつ、最後のディスプレイカットでも、ラベルを剥がして終わるのを見て、長い間テレビCMをつくって来た人間としては、かなりの驚きを感じました。
 
キレイな色(グラス)篇

 あの最後の商品ディスプレイカットをいかに良く見せるかがポイントという面が、少なからずあるからです。

 企画としては、製品の色が変わり、より緑茶らしいキレイな緑になったことを訴求するために、“ラベルを剥がす”という行為が採用されたようです。また、期間限定ながら“ラベルレス”のまま(ペットボトル上部にかなり小さく商品名を表示)でも販売されています。

 発想のきっかけは製品の色だったとしても、結果としては、伊右衛門の「中味で(商品性で)勝負する真に美味しい緑茶」というブランドイメージ獲得のための活動にもなっているように思えます。   
 
ラベルレス、このまま売ってます篇

 ちなみに、ここでの議論とは別に、インターネット販売限定で、主にエコ目的と廃棄時の分別の手間を省くための“ラベルレス”製品の販売を各社が始めており、そちらはそちらで話題になっています。

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