マーケターとして成長し続けるために、どんな視点を持ち、どんな問いを立てるべきか。数多くの企業のマーケティング戦略と組織づくりを担ってきたクー・マーケティング・カンパニー 代表取締役の音部大輔氏は、「アジェンダノート」での連載や対談を通じて、その本質を言葉にしてきた。

 6月27日に開講する「音部大輔のマーケティング戦略講座」では、音部氏本人が講師として登壇し、実践的な知見を直接伝える。本記事では、その開講を記念し、音部氏がこれまで語ってきた「問い」や「答え」の中から、マーケターとしての成長に必要な視点や考え方のヒントを紹介していく。
 

金言① 「このプランが失敗するとしたら、どんなときに何がありますか?」


 資生堂やユーグレナでマーケティングや経営に携わってきた経歴を持つ工藤萌氏(スープストックトーキョー 取締役社長)は、新卒で入社した資生堂で、当時CMOを務めていた音部大輔氏のもとブランドマネージャーを担っていた。その経験を通じて学んだことの一つが、この印象的な問いである。

「マキアージュの新しい口紅の企画をプレゼンしたとき、音部さんから『このプランが失敗するとしたら、どんなときに何がありますか?』と聞かれ、ハッとしました」と工藤氏。

 当時は成功前提のポジティブなプランしか想定していなかったことに気づかされ、ブランドマネジメントの本質に触れた瞬間だったという。競合とのシェア争いが熾烈な中、リスクの想定や予防策の必要性を実感し、「ブランドマネジメントとはこういうことか」と理解が深まった。この経験を経て、工藤氏は今でもリスクを含めて考える習慣が身についていると語る。

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金言②:「良いマーケター」の定義を「売上を伸ばした人」にしてしまうことがよくあります。これは人材の選定には役立つかもしれませんが、育成という観点からは難しいでしょう。


「良いマーケターとは何か」という定義を持つことが、育成の出発点になると音部氏は指摘する。

 売上を伸ばしたという実績は評価の指標として便利だが、それだけでマーケターを定義すると属人的な見方に陥りがちだ。「あのブランドが伸びたのは、あの人が天才だったから」「うまくいかなかったのは、その人がいなくなったから」といった議論が起きやすく、組織としての学習や再現性を損なうことになる。

 マーケターの個性を尊重しつつも、一定のスキルや思考プロセスを共有化することで、組織全体の力が底上げされる。

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金言③『孫氏の兵法』を書いた孫氏が現代にタイムスリップしたら、当時と変わらず活躍できるか


 この問いは、2022年のマーケティング学会で音部氏が講演で取り上げたものだ。「孫氏が現代でも活躍できるか」という質問に、会場の半数が「できる」と回答。続けて「葛飾北斎はどうか」「那須与一はどうか」と聞くと、それぞれ7割、1割と回答が分かれた。

 ここで問われているのは、その人物の「スキルをどう解釈するか」である。孫氏を「古代の軍事戦略家」と見れば現代での活躍は難しいが、「戦略の要諦を掴んだ人物」と解釈すれば、現代でも戦略・マーケティング領域で活躍できる可能性がある。

 葛飾北斎も「木版画の職人」ではなく「視覚情報で感動を与える人」として見れば、CGアーティストとして通用するかもしれない。

 那須与一も「弓の達人」ではなく「遠距離から正確に的を射抜く能力を持つ人物」と再解釈すれば、ライフル射撃やドローン操作など別の分野で活かせる可能性がある。

 このように、時代が変わっても変わらない「本質的な能力」に注目することが重要であり、マーケティングの仕組み自体も、手法こそ変化していても、本質は大きく変わらないと音部氏は説く。

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