成長企業から考える「マーケターの定義」 #06
必要なのは、競合? 現代における新市場創造とブランディングのための方法論
新たに市場をつくるために必要なのは、競合
では、次に⑴の“新”市場創造についてです。市場は「ニーズの満たし方が似通った商品やサービスの特定カテゴリー」と定義できると思います。
つまり、“新”市場創造とは“新”カテゴリー創造で、似たようなサービスを提供する仲間(競合)やユーザーと共に、カテゴリーをつくり育てていくことです。成熟した日本においては、多くの企業は既に存在するレッドオーシャンの中で激しいシェア争いをしていますが、特にデジタルサービスにおいて市場のキワが曖昧になっていて、ゆえに“新”市場をつくりやすいのだと思います。
車の競合は、カーシェアやウーバーだけではなく、同じ娯楽時間を奪い合うという観点で言うと、スマホゲームかもしれないし、TwitterはLINEの競合とも言えるし仲間とも言えるわけです。新しい価値を提供するサービスは、既存の様々なサービスの代替になり得ます。その分、既存の市場を再定義したり、新しい市場を創りやすかったりするのだと思います。
新たに市場をつくるために、必要なものは競合です。それは、共に市場を育てていくパートナーという視点と、ユーザーのカテゴリー認知を助けてくれる存在という視点の2つがあります。これら2つの観点から、新奇性の強いプロダクトで市場をつくる際には、あえて仮想敵をつくることが有効です。
例えば、自動車を発明した時には、敢えて早い馬車と言って、モービル市場に一時身を置き、競合の自動車メーカーが出てきたタイミングで、自動車市場の中でのリーディングポジションを取るといったようなイメージです。iPhoneは電話市場、音楽プレイヤー市場、カメラ市場に、それぞれ参入し、結果としてスマートフォンという市場をつくった、という捉え方もできます。
これらに共通するのは、競合と敢えて最初は同質化しつつ、結果的に差別化してユーザーから受け入れられやすいアプローチをとっているということです。つまり、最初から “新”市場をつくりました、とひとりで叫ぶよりも、既存の市場に参入し、その市場において圧倒的に新規性が強いことを認識させて、結果的に新しい市場として暖簾分けされて出ていくようなイメージです。
人間は全く新しいものは理解しにくい特性があるので、既存の〇〇に似ている、近い存在であることを伝えることが、“新”市場を創る際に重要な視点だと思うのです。
このようなアプローチは、新奇性の強いスタートアップ企業のサービスだけが取れるアプローチではなく、昔からあるプロダクトでも可能なアプローチだと思います。あるお菓子はサプリ市場に身を置き、お菓子というカテゴリーとサプリというカテゴリーにまたがって存在した結果、サプリ菓子という新しいカテゴリーを創出した、みたいなことです。
人々の欲望の満たし方が多様化し、市場のキワが曖昧になっている今、一つのプロダクトでいくつかの市場にまたがって商品展開することは有効な手段だと思います。市場のセグメンテーションを柔軟に変更していく戦い方、という言い方もできると思います。
そして、そういったいくつかの市場を行き来した結果、新しい市場がユーザーの心の中に生まれてくるのだと思います。ちょっと長くなりすぎたので、この辺りで止めておきます。続きはオフラインで(笑)。
これまで約半年間、今回も含めると全6回に渡り、アジェンダノートでマーケティングに関する様々なテーマについて書いてきました。
当初、依頼を受けた際には、大体5~6回分書いてください、ということだったので、今回は集大成のつもりで、ど真ん中のテーマで書いてみました。そして、めっちゃ長くなりました。短い文章にまとめるのが苦手なのかもしれません。
答えのないマーケティングの世界では、常に答えをつくり出すことが求められます。マーケティング業界の中に身を置き、答えを共に創っていく。
今後とも、そのような活動の一助となっていければ、これ以上の喜びはありません。このコラムを読んだ皆さんと、オンライン、オフラインのどこかでお会いし、意見交換をさせていただければ幸いです。それでは、いつかまた。
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