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【速報】ディノスCECO 石川森生氏が退任、「妖怪」が集うコミュニティづくりへ

 

ディノスを退職、新たな価値共創目指す

 総合通販DINOS CORPORATION(旧ディノス・セシール)の CECOを務め、デジタルとアナログをマージした画期的な手法でEC事業をグロースさせたことで知られる石川森生氏が、6月末で同社を退職した。7月からは自身が創業し、企業のブランディングやECサイトデザインを支援する「RESORT」の代表取締役社長に就任。各分野のスペシャリスト(石川氏は「妖怪」と呼ぶ)をプロジェクトごとにつなぐコミュニティづくりに注力し、新たな価値共創を目指すという。
   

「ECのプロ」としてカタログ通販で画期的改革


 石川氏は2008年にSBIホールディングスに入社し、SBIナビ(現ナビプラス)を設立して小売業を中心に多くのECサイトの成長に貢献。その後ファッション通販サイト「マガシーク」でマーケティング部門責任者、製菓製パンECサイト「cotta」を運営するTUKURUの代表取締役社長を務め、若くしてECのスペシャリストとして名を馳せた。2016年にカタログ通販ディノス・セシールにCECOとして入社すると、デジタルソリューションを活用した「カート落ちDM」「小冊子DM」を導入し、ECで購入しなかった人のCVRや、購入後のレスポンスを飛躍的に向上させた。この取り組みはデジタルとアナログを融合した画期的な施策として注目され、2019年に第33回全日本DM大賞(日本郵便主催)を受賞した。
  
 
 「ECの専門家」として頭角を現しながら、「ECがリアルを上回ることはない」と確信していたという石川氏。「ECは手段のひとつ」と割り切り、紙媒体を主力として1100億円規模の売上を築いてきたディノス・セシールの歴史にリスペクトを持って向き合ったことで、「EC至上主義」や「部分最適」に陥らず、抜本的な組織改革と顧客ロイヤルティ向上を実現した功績は大きい。そんな同氏が、8年を過ごしたディノスを離れる決断をしたのはなぜなのか。

 「まずはKPI(重要業績指数)で一定の成果が見られたのが大きな要因です。コロナ禍など外部要因もありますが、私が入社してからの期間でEC化率を倍増させることができました。一方で、電話やハガキ、時にはファックスで注文してくださるお客さまが今も一定数いて、コールセンターには『○○さんから買いたい』と指名されるような優秀なスタッフもいます。これらはデジタルでは得られない強みなので、全てをECで置き換えるべきではないと当初から思っていました。その結果、妥当な範囲でのEC化は達成し、EC人材育成や組織改変も目処がたったと判断しました。私をディノスに引き入れ、経営者として多くのことを学ばせていただいた石川順一前会長とのお別れも区切りのひとつになったかもしれません」

 常に複数の企業でマーケティング・経営の実践を重ねてきた同氏は、2018年に設立したD2Cインテリアブランド「KANADEMONO(かなでもの)」を運営するルームクリップ株式会社のカンパニー長&EC事業部責任者、オルビスのCDO(Chief Digital Officer)、マーケティング支援の上場企業トレンダーズの社外取締役、複数の企業の顧問やアドバイザーを務め、多数のエンジェル投資も行う。

 今回、代表取締役社長に就任する「RESORT」も、もともと、前代表の河野裕太氏と共に共同創業者として経営に参画してきた。そのため「ディノスを離れること以外はそんなに変わりません」と話す。
   

複数キャリアは成長のための必然


 一方で、RESORTを基点とした新たなチャレンジの構想も明かす。さまざまな分野のスペシャリストが緩やかに集うコミュニティをつくることだ。「これまでも実質的にやってきたことですが、今後はより広く『個』の力がつながり、プロジェクトごとに集合・解散を繰り返しながら、新しい価値や高いアウトプットを創出できるエコシステムをつくります。前代表の河野はクリエイティブディレクションに専念し、コミュニティを管理する立場となります。」(石川氏)

 新コミュニティをブランドとして捉えるため、生み出したメタファーが「妖怪」だ。多様性と専門性、特異性に富んだクリエイターやマーケターなどの「妖怪」が集う場所として、ブランド名を「MAISON KAPPA」と名付けた。実際に「妖怪」たちが交流・仕事ができる施設を都内に建築中で、カフェ&バーやコワーキングスペースの運営も開始する予定だという。
  
新組織のブランド名は「河童(妖怪)の集団」の意味(RESORT提供)
 
 なぜ今、「コミュニティ」なのか。それは石川氏自身のキャリアや、業種も業態も異なるさまざまなビジネスを成長させてきた戦略とも通じるという。

 「私自身、日本企業の常識的な働き方にフィットできていないという感覚がずっとありました。今でこそフリーランスや副業も増えてきましたが、私のように複数企業に関わっていると『今何やってるの?』『メインはどれ?』などと聞かれます。確かに、事業ごとに割けるリソースに差はあるかもしれませんが、私の中では全部がメインです。正社員であろうと業務委託であろうと、やることを変えたり、手を抜いたりすることはありません

 私の中では、ビジネスを成功させる戦略の立て方は基本的に、どんな商材や業種業態でも共通していて、ひとつだけをやっている時よりも、複数を同時に回す方が、明らかにアウトプットの精度が高いんです。ひとつだけだと、施策の効果が普遍的なものかどうか判断できません。さまざまな場所で実験を重ね、全体でPDCAを回していく、ひとつの成功を別の事業に還元・応用することで、ウィンウィンになれると思います」

 複数のキャリアや収入源を持つことは、リスクヘッジの意味で語られることも多いが、石川氏の場合は、ビジネスの成長に不可欠な戦略ということだ。

 「仕事は『事に仕える』と書きます。仕えるのは組織でなく『事』でありたいんです。一方で、個人でできることは限られています。私は経営やEC運営は多少できても、カフェの内装設計はできませんから(笑)。クリエイティブディレクターの河野や、その周辺の最高にクリエイティブな人材と協力して、最高のアウトプットを出していきたいです」

 デジタル/アナログという手法や顧客接点の区別、組織や働き方、業種業態の違いといった垣根を軽やかに飛び越えて、最適なナレッジとノウハウと組み合わせてビジネスを成長させてきた石川氏。今、時代がようやく追いついてきたのだろうか。石川氏と「妖怪」たちの今後の活躍が期待される。
  
 

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