マーケターズ・ロード 出口昌克 #04

「フィードバックをもらえることが一番の才能」P&G、日本コカ・コーラを経て成果を出し続けるソーダストリーム出口氏のマーケター道

前回の記事:
ソーダストリーム出口氏がP&G時代「首の皮一枚」と評されて気づいた「自分に足りなかったもの」
 家庭用炭酸水メーカーを製造・販売する「ソーダストリーム」のカントリーマネージャーとして日本オフィスを統括する出口昌克氏は、消費財ビジネスのプロフェッショナル。前職は日本コカ・コーラのバイスプレジデント、前々職はP&G(プロクター・アンド・ギャンブル)ジャパンの執行役員 マーケティング本部長と、輝かしいキャリアを歩んできた。

 しかし、その道のりは決して平坦ではなかった。第1回第2回では、炭酸水を飲む習慣のなかった日本で2011年から市場拡張してきたソーダストリームの戦略と、2021年に参画した出口氏が実践したユニークな社員育成法、第3回はP&Gの駆け出しマーケター時代に直面した困難を振り返ってきた。最終回の今回は、アンダードッグ(かませ犬)という認識や逆境を跳ね返し、成果を出し続けてきた出口氏が、マーケターとして高みを目指し続ける上で大切にする信念を聞いた。
 

Yes ,andのマインドセット


―― 前回はP&Gの駆け出し時代、「新入社員のように指導して」と上司に直言し、活路を拓きブランドマネージャーに昇格したお話を伺いました。マインドセットを切り替えるだけで結果を出せたのですか。

 そうですね。オーナーシップに加えて「Yes, and」のマインドセットに切り替えることでビジネスの危機にも対処できました。

 やっとのことでブランドマネージャーに昇格し、これから頑張るぞと希望に溢れていた時に、競合から強力な新製品が発売されました。売上が約25%も下落するという危機的な状況でした。チームの雰囲気はどん底、重役陣から何とかしろとプレッシャーがかかってきます。

 その時に思い出したのが以前の上司から教わった「Yes, and(分かりました、そのためには〇〇という条件が必要です)」という思考法です。苦労したアシスタントブランドマネージャー時代、上司から難しい指示を受け取ると「Yes, but(分かりました、しかしながら〇〇という理由でできません)」とできない理由ばかり挙げていた私に対して、冗談交じりではありましたが「今後は『Yes, but』という口癖を禁止する」と言われたのです。

 困難な課題に対して、できない理由をいくつも挙げるのは簡単ですが、できる方法を考えるのは難しいです。ただ、それを考えるのがプロとしての私の仕事だと、そのためには必要な条件を提示できるように考えろ、と上司から訓練されました。
 
 その学びを生かして、失った大きな売上を急速に回復するには何が必要かと考えることにしました。25%もの大きな損失ですので、小さなプランをちまちま積み上げても限界があります。市場の注目を集める最大級の新商品を、短期間で準備する必要があると結論付けました。

 そしてその新商品を出すためには、リスクを取って通常数年かかる新製品開発プロセスを半年で進めること、社内の資源を最大限に集めることが必須条件でした。上層部とこれらの2条件の合意を取ることで、一気に新製品開発を進め、結果として半年以内にシェアをV字回復することができました。これもマインドセットを切り替えたことがきっかけと言えると思います。
 
ソーダストリーム ジャパンカントリーマネージャー
出口 昌克 氏

  プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパンにて執行役員マーケティング本部長、日本コカ・コーラにてバイスプレジデントとして国内外計15のブランド管理経験を持ち、消費財ビジネスにおける中長期戦略立案を得意分野とする。2021年より現職。カントリーマネージャーとしてソーダストリームの日本オフィスを統括する。

 ただ、オーナーシップを持つだけでは解決できないこともありました。そんな時は上司、先輩の助言が役に立ちました。

 ジョイを担当し、ブランドマーケティングに少し自信が出てきたタイミングで、ショッパーマーケティングチームに異動しました。全く想像がつかない営業部付けのマーケティング担当です。

 ブランドマネジメントではマーケティング部がプロジェクトの中心でしたが、ショッパーマーケティングにおいて主役は営業部で、彼らが売上を上げる補佐をします。視点も「自社のブランド構築をして売上を確保する」という観点から、「得意先である販売店のブランドを構築して売上を確保する」というシフトが必要です。ところが、それを全く分かっていなかった。だから、アイデアをつくっても営業チームの賛同が得られなかったり、販売店にお買い上げいただけなかったり、またしても「提案を通せない人」に逆戻りです。以前と違ってオーナーシップはあるのに、企画が通らない。

 悩んで営業部の先輩に相談したところ、まずは販売店の話を聞くことを勧められました。「君は自分のプランを売り込みたくて、自分の話ばかりしているけど、相手は何を欲しがっているのか分かっているのか。まずは謙虚に教えを乞いに行け」

 マーケターとして消費者の話を聞くのは当然と知っていたのに、それが販売店になると、その基本を忘れていました。商談に同行して販売店のニーズを伺いに行き、先輩営業社員の話を聞き、「販売店の利益を最大化する」という視点を学びました。

 とある商談では、販売店から「総論賛成、各論反対」というフィードバックをもらいました。「君の提案の大枠には賛成するが、店舗運営まで視野に入れた実現可能性に欠けている」というフィードバックです。綺麗なビジョンを持つだけでは不十分、地に足を付けた実現可能性を徹底的に検証することを販売店から教えてもらいました。ここで教えてもらったことも、その後のプラン作成時に意識しています。

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