日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #55

サントリー 特茶の秀逸アウトドア広告「イマ、ソコにしかない面白さ」で価値を伝える

前回の記事:
「おつかれ生です。」で好調、意味を追わないアサヒビール「マルエフ」のテレビCM方法論
 私は長年、多くの広告コミュニケーションの海外事例を紹介、その分析に努めているのですが、この連載では、いつもとはある意味では逆に、まず日本の話題作に目を向けて解説し、そのうえで、その意図や施策の在り方が、海外のどんな潮流と関連しているのかについて考えていこうと思います。今回は、その第55回です。
 

実験結果をボトルにまで入れたことを訴求する「ぴったり広告」


 広告と言えば、同じ内容のものを大量にメディアに載せるのが基本です。たとえば、同じ内容のテレビCMがさまざまな局で同じタイミングでも流れています。また、ある時期では、同じ内容のアウトドア広告がどこの駅にも掲載されています。

 しかし、掲載場所の特性をアイデアの核に据えたクリエイティブも時々開発され、人々の記憶に強く残っています。古くはNIKEが街のゴミ箱の上に自社のロゴを掲載、ゴミ箱をバスケットボールのゴールに見立てて「ゴミはゴミ箱へ」という内容を遊び心たっぷりに訴求した例が有名です。この連載でも随分前に、映画『君の名は。』の地上波テレビ放映時に合わせた“ロゴの入れ替わりCM”を取り上げたことがあります(参照:「君の名は。」からカンヌまで。強力コンテンツに “乗っかる” レバレッジ型クリエイティブのススメ

 2024年の10月から11月にかけて、サントリー伊右衛門特茶が「ぴったり広告」と称して、このタイプの電車広告を展開しました。電車のドアの透明部分に貼られた広告には、「あの○○○が、特茶のボトルに入りました」の文字と、一部が空白になっているボトルが描かれています。さらに「(あの駅に着いたらわかるはず)」という文章も。
 
伊右衛門特茶a ぴったり広告
 
ぴったり広告の仕組み
 電車が駅に入って来て停車すると、○○○の部分には「グラフ」という文字が、ボトルの空白部分には本来描かれているグラフが入って見えるのです。駅側のアウトドア広告には、グラフという文字と、ボトルに描かれたグラフだけが掲載されていて、さらに「これは電車の中から見た時にだけわかる広告です」の文字も…。

 いやはや、楽しいですね。まさしく「イマ、ソコにしかない」面白さ。このアイデアを形にした企画会議の盛り上がりが目に見えるようです。さらに、その後の実現のための苦労の大変さも想像がつきます。

参考:「グラフがボトルに入った」という同様の内容のテレビCMは こちらで見ることができる。

 しかしこうした、今まで見たことがない工夫こそが、広告コミュニケーション界に刺激を与えるし、それを実行したサントリーという企業の懐の深さにも、感服しました。この企画実行チームに、大きな拍手を送りたいですね。

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