プロマーケターの倫理と資本主義の精神~広告苦情50年の歴史から~ #04
スマホ、リーマン、震災、コロナで広告苦情も変化。ネット広告の悪質事例「三段跳び型」で摘発も【JARO 川名周】
2025/03/25
消費者の声を起点に問題のある広告を自主規制する民間の機関、日本広告審査機構(以降:JARO)。この連載では、設立から50年にわたってJAROに寄せられてきた広告苦情の歴史(「苦情の50年史」)を振り返りながら、今も昔も繰り広げられる広告と倫理のせめぎ合い、そしてプロのマーケターに求められる「倫理性」について考えてきました。
初回は「プロフェッショナル」という言葉が持つ歴史的背景とプロマーケターに必要な素養をお伝えしました。第2回、第3回は1974年のJARO設立から2003年度までを10年ごとに俯瞰し、激動の時代情勢や自由競争の波を反映しながら広告苦情も増加・多様化していく反面、消費者の意識も移り変わり規制が強化されていく様子を概説しました。
第4回となる本稿は2004-2013年度と2014-2023年度の計20年分を続けて解説します。インターネットやスマートフォンの急速な普及を受けて、苦情の様相も大きく変わってきます。特に2015年度以降ではアフィリエイトプログラムを使った手法が普及し、「三段跳び型」と呼ばれる悪質な広告・表示がスマホ画面を通してごく身近な存在となっていくのです。
初回は「プロフェッショナル」という言葉が持つ歴史的背景とプロマーケターに必要な素養をお伝えしました。第2回、第3回は1974年のJARO設立から2003年度までを10年ごとに俯瞰し、激動の時代情勢や自由競争の波を反映しながら広告苦情も増加・多様化していく反面、消費者の意識も移り変わり規制が強化されていく様子を概説しました。
第4回となる本稿は2004-2013年度と2014-2023年度の計20年分を続けて解説します。インターネットやスマートフォンの急速な普及を受けて、苦情の様相も大きく変わってきます。特に2015年度以降ではアフィリエイトプログラムを使った手法が普及し、「三段跳び型」と呼ばれる悪質な広告・表示がスマホ画面を通してごく身近な存在となっていくのです。
2004~2013年度:ネット通信サービスの苦情が増加
この時期は、インターネット環境がビジネス利用から家庭利用にも広く普及していった時期です。携帯電話やインターネット接続サービスに関連する問題は1990年代後半から顕著になり、各社による複雑な割引料金体系が混乱を招きました。特に電話番号は変えずに他社への乗り換えができるナンバーポータビリティ制度が始まった2006年には、携帯キャリア各社が大量の広告を投入しましたが、「条件が分かりにくい」などの苦情に繋がりました。また、Wi-Fiなどネット通信インフラの「工事費無料」や「サービス提供地域」などの広告表示についても審議対象となるケースが多く、JARO業務委員会でも複数件が審議されました。
加えて、家庭で使用するハード機器(PCやWIFIルーターなどの周辺機器)の需要が伸びたことを受け、量販店での折込広告にも「おとり広告」(販売するつもりがないのに気を引く商品の広告で消費者を誘引し、実際は別の商品を買わせようとする手法。景品表示法の規制対象になっている)のおそれがある、といった苦情が集まりました。

棒グラフ:全体件数 折れ線グラフ:上位10業種の件数推移
2011年3月(2010年度)の東日本大震災では、多くの企業が通常のCMを差し替え、公益法人のCMが繰り返し放送される事態が発生しました。この結果、「CMがしつこい」などの苦情が集中して寄せられ、行政や公益法人など団体関連の苦情件数が急増しました。また、当時は放射性物質への効果を謳った商品の苦情も見られました。
この時期は、JAROの苦情やご意見の収集方法にも変化がありました。2006年度からJAROサイト上でウェブフォームの試験運用が始まり、当初はテレビCMに限定したオンライン受付が行われました。2013年度には受付対象が全媒体へ拡大し、相当数の苦情やご意見がオンラインで送られてくるようになりました。2014年度から正式運用に切り替え、統計に計上されています(2006~2013年度のオンライン受付は試験運用であったため、別統計として記録したことから下記グラフの総件数には含まれていません)。

棒グラフ:全体件数 折れ線グラフ:上位10媒体の件数推移
媒体別では、10年間の総受付件数で見るとテレビが1位、折込が2位というのは前の10年(1994年度−2003年度)と同じ傾向となりましたが、前回は8位(962件)だったインターネットが3位(5881件)になりました。日本の広告費(電通)統計で、インターネット広告費が2006年に雑誌広告費を抜き、2009年に新聞広告費も抜くという、ネット広告の急激な右肩あがり時代が始まったことを反映していると考察できます。
この10年のポイント
🔳広告苦情件数は減少。リーマンショックや東日本大震災による景気低迷に伴う広告費減少などが背景と考えられる。また、統計外としていた2006年から開始したオンライン受付を利用する人が増えたことも要因である。(2006年9月から2014年3月までのオンライン受付は計1万4371件)
🔳インターネットが家庭にも普及したことで、それを支える通信サービスや量販店への苦情も目立った。
🔳媒体別では「テレビ」「折込」の2強に続き「インターネット」が3位へ上昇。「新聞」「雑誌」への広告苦情は減少した。