アジェンダノート編集部より、新年のご挨拶

2026年は、価値創造・市場創造の実現に向けて「クロスオーバー」を推し進める1年に【アジェンダノート編集部】

AIの存在を前提に、顧客体験や業務フロー全体を再設計するフェーズへ


 2025年を振り返ると、「AI」という言葉を聞かない日はなかったと言っても過言ではありません。あらゆる議論にAIの存在がついてまわり、弊社主催の「マーケティングアジェンダ」を含む多くのマーケティングカンファレンスでも、 「AIをどう取り扱うか?」は常に重要な検討事項のひとつとなっていたように思います。

 とはいえ、2024年と2025年を比較しても、また2025年という1年の間にも、AIに関する議論の内容は明らかに変化しています。

 AIで何ができるのか? AI活用によって何が変わるのか? どの程度取り入れるべきか?ーー こうした「様子を伺う」「現在地を確認する」「自分・自社との距離感を測る」ような議論が中心だったところから、2025年後半には、より実践的な議論が行われるようになりました。

 5月開催の「マーケティングアジェンダ沖縄」、11月開催の「マーケティングアジェンダ東京」では、「AIは市場を創造するのか」をテーマに掲げ、マーケターの本質的な仕事である「市場創造」に取り組む上で、AIをどう位置づけ、活用していくべきかを議論しました。

 5月の段階で主たる議論となったのは、「AIがますます広がる中で、人間の果たすべき役割とは何か」「業務効率化だけでなく、価値創造においてAIをどう活用していくべきか」といった、やや抽象度の高い内容でした。それが11月には、AIが驚異的なスピードで進化を遂げていること、AIをビジネス・マーケティングに活用していくことを大前提としつつ、「具体的にどう活用していくか」「顧客体験や業務フローのどこにAIを組み込み、成果や持続的な事業成長につなげていくか」というより実践的な議論へと移行しました。

 AIという新しいツールを理解し、マーケティング業務に部分的に取り入れていくフェーズから、AIとの協働・共創を前提として、顧客体験・業務フロー全体を再設計するフェーズへ。2026年は、この再設計をさらに具体的に推し進めていく1年になりそうです。

 

マーケティングアジェンダ沖縄2025の初日に行われたキーノートには、Mizkan 代表取締役専務 兼 日本+アジア事業COOの槇亮次氏と、アサヒグループジャパン 常務執行役員 最高成長責任者(CGO)の梶浦瑞穂氏が登壇。日本ケンタッキー・フライド・チキン 専務執行役員 CDTO DX 推進本部長の池照直樹氏がモデレーターを務め、AI時代におけるマーケティングの未来像を探った。 ※所属・肩書きはすべて登壇当時

 

価値創造・市場創造に向けた「クロスオーバー」を加速していく

 AIと協働・共創しながら、マーケターの本質的な仕事である「価値創造」そして「市場創造」を実現していく。そこで意識すべき重要なキーワードのひとつに「クロスオーバー」があると考えています。

 クロスオーバーとは、異なる領域との交差、融合、コラボレーション。価値創造や市場創造を目的としたとき、マーケターが既存の“垣根”を超えて一歩踏み込んで関わるべき領域として、ここでは「テクノロジー」「クリエイティブ」「経営」の3つを挙げてみたいと思います。
 

1:テクノロジー 
 顧客に体験や価値を届ける上で、AIを含むテクノロジーの活用を避けて通ることはますます難しくなってきています。商品・サービスそのものや、その周辺の体験を提供する際、顧客との直接接点(フロントエンド)も、インフラ・オペレーション部分(バックエンド)も、テクノロジーを活用して最適なものにしていく視点が欠かせません。

 事業成長や事業変革のために、マーケティングとテクノロジーの融合・連携が不可欠になる中、海外の先進企業では、CMOとCTO(あるいはCDO、CIO、CAIO)が密にコミュニケーションをとりながら共に体験・価値をつくり、日々磨き上げていくのが当たり前の体制になりつつあるとも聞きます。

 また、AIによってその連携のハードルが下がっているという指摘も見逃せません。たとえば、「優良顧客を特定したい」「広告効果を改善したい」「メッセージの配信頻度・タイミングを最適化したい」といったマーケティングの要望・課題を、「顧客のスコアリングモデルを設計する」「機械学習で広告クリエイティブを最適化する」「対象者の反応に基づき予測アルゴリズムを設計する」といった実装可能な形へ変換しやすくなったことは、その一例です。マーケティングとテクノロジーの間に共通言語をつくるとともに、役割分担を明確にしやすくなったと言えるでしょう。

 相手が重視するポイントや判断基準、思考プロセスを理解し、目的・目標を共有して、密にコミュニケーションをとること。マーケティングとテクノロジーの歩み寄りは、業種・業態を問わずあらゆる企業が進めるべき重点施策のひとつと言えそうです。


2:クリエイティブ
 
2025年、アジェンダノート編集部は、カンヌライオンズをはじめとする海外広告賞を現地視察・取材する機会に多く恵まれました。そこで感じられたのは、多様かつ複雑なビジネス課題・社会課題の解決に取り組むにあたって、クリエイティブの力を求める企業・ブランドが増えていること。また、マーケティングとクリエイティブの連携を強めることで、これまでにない挑戦に打って出て、大きな成果を生み出す企業・ブランドが増えていることです。

 カンヌライオンズ2025に関する古川裕也氏の寄稿にもある通り、従来のように「(商品・サービスの)価値を伝える」ことだけでなく、「価値をつくる」ところからクライアント(事業会社の経営者やマーケター)とクリエイティブ(エージェンシー)が協働し、そうして生み出された価値・成果がグランプリを受賞するなど高く評価されるケースが増えました。また、いくつかの部門の最終審査で行われるプレゼンには、これまでエージェンシーのクリエイターがペアで登壇するのが主流でしたが、事業会社のCMOとエージェンシーのECD(エグゼクティブ・クリエイティブディレクター)がペアで登壇するのが主流になりつつあります。

 コピーやグラフィック、映像といった具体的な表現物を指す「狭義のクリエイティブ」ではなく、価値を生み出すための創造的な思考・設計、問題解決全体を指す「広義のクリエイティブ」は、戦略策定から施策の企画設計、UI/UXの実装に至るまで、マーケティングのあらゆる工程に欠かせない要素です。しかし、クリエイティブの役割を狭義のそれに限定し、マーケティングとクリエイティブの間に線を引いている企業は珍しくないように思います。

 価値創造・市場創造を実現するにあたっては、業界の常識や自社の前例にとらわれない、新たな発想が必要とされる場面も少なくありません。マーケター自身がクリエイティブの素養を持つこと、またクリエイティブパートナーとの効果的な連携を目指すことは、マーケティングの成果を高めていく上で重要な一手と言えるのではないでしょうか。


3:経営
 
価値創造や市場創造に取り組むうえで、経営とのアラインメント(調整、連携)は不可欠です。ごく当たり前のことのように思われますが、実際にはこの点に課題を抱えるマーケターやマーケティング組織は少なくありません。

 いかに革新的な企画アイデアであっても、経営の課題意識や目指す方向と合致していなければ、実行することはできません。「できること」も「やるべきこと」も「やるに越したことはないこと」も無数にある中で、何を今優先すべきかを、経営方針に照らして理由とともに説明する必要があります。その際、顧客接点を担うマーケターだからこそ得られる顧客インサイトを経営に還元し、目線合わせをしながら進めていくことも重要でしょう。

 市場創造に取り組み、成果を上げているトップマーケターからは、「マーケターは一度は経営者を経験したほうがいい」という声もよく聞かれます。マーケティングを“経営ごと化”し、事業活動においてより重要な立ち位置を担っていくためには、経営が日々何と闘い、何を重視しているかを理解する必要があります。経営が相対している世界や見ている景色を知り、その一段深い視点に立ったコミュニケーションをとることが、マーケターには求められています。


 以上の3つの領域は、2025年のメディア取材やカンファレンスのセッション企画を通じて、マーケターが連携していく必要性を特に強く感じた領域です。2026年、アジェンダノートでは、この3つのクロスオーバーを実行するヒント・きっかけとなるような企画を積極的に実現していきたいと考えています。

 

3つの武器「当事者意識」「人間理解・顧客理解」「価値観・美意識の言語化」

 クロスオーバーを推し進めていく上で、マーケターが身につけるべき、またより強化していくべきスキルやマインドにはどのようなものがあるでしょうか。これもたくさんありますが、ここでは、「当事者意識」「人間理解・顧客理解」「価値観・美意識の言語化」の3つに絞ります。(「マーケティング」領域らしからぬ、漢字だらけのラインナップになりました)

1:当事者意識
 
価値創造や市場創造に関わるあらゆる業務や組織に対して、「我がこと」として向き合う姿勢を指しています。もちろん、機能ごとの専門性を高めたり、効率化を図るための分業体制は前提にありますし、すべてをマーケターやマーケティング組織だけで担うべきだというわけではありません。重要なのは、価値創造に向かう一連のプロセスを滞りなく進めるために、必要に応じて各工程に関わり、支援し、停滞が生じた際には主体的に問題解決に関与していく、その能動性と覚悟を持つことです。

 価値の構想から実装まで、すべての工程を視野に入れ、プロセスを前に進め続けること。戦略やプランを具体化し、世の中に届けるまでに立ちはだかる数々の壁を乗り越え、責任を持ってやり切ることは、現時点ではAIではなく、人間にこそ求められる役割だと言えそうです。これは、必ずしもマーケターだけに求められるものではなく、誰が担ってもよい役割です。しかし、その「誰が担ってもよい役割」に自ら手を挙げ、当事者意識を持って取り組むことは、周囲の人や組織からの信頼や敬意につながり、結果として価値創造や市場創造を実現しやすくなると言えるでしょう。


2:人間理解・顧客理解
 
価値創造・市場創造を実現するまでの過程は、重要な判断・意思決定の連続です。多様なステークホルダーが関わり、考慮すべき事柄が無数に存在する中で、重要なのは「それは顧客にとって価値があることか?」「どちらがより顧客にとって望ましい結果をもたらすか?」という基準に常に立ち戻ることです。そうした中、顧客接点を担う存在として、顧客インサイトを組織全体に還元し、顧客視点に立った判断・意思決定を促していくことが、マーケターには求められているのではないでしょうか。

 7月に開催されたネプラス・ユー2025のオープニングキーノートでは、Wisdom Evolution Company代表の西口一希氏が、次のように語りました。

 「人間の心理は、思う以上にいい加減です。ホルモンバランスや、内分泌、周りの雰囲気、プライドといったさまざまなものから影響を受けて、なんとなく嘘をついたり、事実でないことを信じたりする。この人間の複雑な心理をAIが完全に理解するのはまだ先のことでしょう。ですから、マーケターに残された道のひとつは、人間の深層心理やその延長線上にある本能的な行動原理に対する洞察を極め、動物としての人間を理解することだと思います」

 AIがまだまだ理解しきれていない、人間という存在にとことん向き合い、その本音や真の欲求に肉薄しようと試みながら、人間らしい感性で「どうしたら嬉しいだろう」と考え、体験や価値をつくりあげていく。人間理解・顧客理解のプロフェッショナルとして、価値創造に関わるあらゆる人材・組織と連携していくことが、引き続き、マーケターの重要な役割であり続けると思います。

 

関西エリアを中心にトップマーケターが集結するカンファレンス「ネプラス・ユー2025」初日のオープニングキーノートには、Wisdom Evolution Company 代表の西口一希氏が登壇。花王デジタル戦略部門の廣澤祐氏がモデレーターを務め、AI全盛時代をマーケターが生き抜き、新たな価値を生み出していくための視点が語られた。


3:価値観・美意識の言語化
 
価値創造・市場創造を目指す中で、顧客視点と同様、さまざまな判断や意思決定の基準となるものとして、企業・ブランドとしての「価値観」「美意識」があるのではないでしょうか。

 テクノロジーの進化によって、考えられることや実行できることは増え続けています。そうした環境の中で、企業やブランドがどのような基準で考え、どのように判断し、最終的に何を実行するのか。その拠り所となる「価値観」や「美意識」は、顧客や市場からの信頼の源泉となり、同時にその企業・ブランドならではの競争力の源泉にもなるのではないかと考えています。

 日々の判断や意思決定、そしてその結果に責任を持つといったマネジメント・リーダーシップは、AIによって代替されることも、他社と均質化することも少ない領域と言えます(あくまで、現段階の話ではありますが・・・)。判断や意思決定における、企業・ブランドとしての基準を明確にすることが、「ならでは」の価値を生み、強化することにつながるように思います。

 自社はどのように考え、何を選び、何を成そうとしているのかーーこの問いへの答えを言語化し、組織全体で共有していくことが、これからますます重要になるはずです。そして、価値創造の推進者たるマーケターこそが、まさに「当事者意識」を持って、その旗振り役を担っていくことが大切だと考えます。

 

マーケティングカンファレンス10周年の節目に際して

 ダイレクトアジェンダ(3月開催)、マーケティングアジェンダ(6月開催)、リテールアジェンダ(10月開催)は今年で10周年の節目を迎えます。これまでの道のりを共に歩んでくださった皆さまに感謝をお伝えしつつ、マーケティングという仕事をより面白くしていくために、またマーケティング業界のより良い未来をつくっていくために、さまざまなチャレンジをしていく1年にできればと考えています。

 直近3月に熊本で開催する「ダイレクトアジェンダ2026」のテーマは、既報の通り「Profitable Trust - In the Age of AI 利益を生み、新規を呼ぶ『信頼』のつくり方」です。

 生成AIの進化により、マーケティング活動はかつてないスピードで効率化と最適化が進んでいます。しかしその一方で、顧客とブランドの関係性はより豊かなものになっているのだろうか? そんな疑問を感じるシーンも増えてきているように思います。AIによる自動化・最適化が進むほど、ブランドが顧客から「信頼される存在」であり続けることの重要性は増していきます。短期的なCPAやCVRの改善だけでは測れない、“選ばれ続ける理由”としての信頼。その信頼を精神論ではなく、明確な戦略と仕組みとして捉え、売上・利益、そしてLTVへと転換する方法を探り、信頼を起点とした持続的な事業成長の道筋を描く・・・というのが、テーマに込めた意図です。

 引き続き、AI・データとの向き合い方に意識を向けつつ、マーケティングのあるべき姿、向かうべき方向性を今一度問い直すような、本質的なテーマ設定になったのではと考えています。

 AIを含むテクノロジーが進化し続け、ビジネスおよびマーケティングを取り巻く環境が劇的に変化する時代にあっても、顧客から選ばれ続け、成長し続ける企業・ブランドであるために、何ができるのか?ーー アジェンダノートでも、それをマーケターが主体的に考え、ポジティブに取り組んでいくためのヒントをお届けしていきます。

 2026年が、読者の皆さまにとって素晴らしい1年となることを心から祈念しております。本年もよろしくお願いいたします。


アジェンダノート編集長 齋藤千明

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録