2069年のクォンタムスピン #04

最終章「天空のウラヌス」SF小説で未来のマーケティングを描く④

前回の記事:
「2069年のエンターテインメントと遺品整理」SF小説で未来のマーケティングを描く③
前回までのあらすじ
 2050年にシンギュラリティを迎えた人類社会では、世界統合政府としてのグローバルガバメントがスーパーインテリジェンスAI「プロタゴラス」による社会の管理を進めた。収入こそベーシックインカムで保証されるが、AIに生活全体が管理され、移動が許されない「レジデンツ」と呼ばれる98%の人々と、わずか人口の2%でありながら17のグローバルスマートシティを移動しながら世界の8割の富を生みだす生産性の高い人類「グローバルホッパー」に二分されている。

 2069年、令和が終わって新しい年号「万和21年」となった日本は、唯一のスマートシティであるトーキョーとその他のレジデンツに分かれた社会となっている。この時代に、AIからのレイバーを引き受けて「ナッジ(行動経済学で社会にとって好ましい自主的な選択を促す方法)」を促すコネクターの仕事を続けるトーキョーレジデンツであるカズアキは、スマートシティのサンパウロからの依頼でスマートシティのトーキョー特区へグローバルホッパーであるジオヴァーナに会いに行く。そこでジオヴァーナから聞いたのは、ナッジよりも強力な「スピン」の存在だった。

 カズアキはテロリストによる突然の攻撃によって起こったブラックアウトで「死亡」したと親族には知らされたが、それはジオヴァーナが彼を連れて「クォンタムスピン」のプロジェクトに連れ出すためのものだった。

第1回「2069年のクォンタムスピン」 
第2回「変わるチームワークとアイデア創出」
第3回「2069年のエンターテインメントと遺品整理」
 

軌道エレベーターのシャトルでピッチの準備する


 軌道エレベーターは巨大なケーブルが果てしなく上に長く伸び、この巨大なケーブルを小型船のような乗り物が移動するように設計されている。軌道エレベーターは全長10万キロにも及び、衛星軌道上の「ウラヌス」までの移動には10日間以上かかる。この旅の間にジオヴァーナはプロジェクトについて説明した。



 「私はこの10年間にわたって、リサーチをしてきた。プロタゴラスの運用も含めて、グローバルホッパーとレジデンツのコネクティングとネットワーキングの現状をつぶさに。そして問題点はAIそのものではなく、人間にあることが分かった。ここにあなたが来るきっかけとなったのは、あなたのプロジェクトの調査結果にあるわ」

 「トーキョーノースエリアの、あのプロジェクト?」

 「そう。あの結果にはヒントがあった。ホッパーとレジデンツや世代による隔絶は広がるばかりで、私たち人間は結局争いを避けられない。しかし争いはマイナスだけとは限らない。争いとは調和に向かう『交換』の一部だと私は思う。厳罰化や純粋化だけでは逆に停滞をもたらす。その停滞を打破する可能性を持ったプロジェクトが増えている」 

 そう言ってジオヴァーナは、独自のリサーチ結果をエレクトロニックペーパーに投影して見せた。トーキョーだけでなく交流をもたらすプロジェクトは、機会スコアが高く出ている。

 「一方で、マイナスはプラスの反動も生む。戦争後に世界が復興したように」

 ジオヴァーナは紛争エリアのマップに回復プロジェクトの成果をレイヤードすると、これも大きな成長を示していた。

 「環境テロリスト『トゥーンべリ』を名乗ってスマートシティを攻撃させたのは、最近自然資源に対するホッパーたちの資源還元スコアが落ちているからだったの。これによって自然資源を積極的に確保させるためにね。でも、あなたに説明した通り、ボルヘスの『裏切り者と英雄のテーマ』のように、英雄と裏切り者は同じだったってこと」

 「それはプロタゴラスの決定ですか、それともあなたたちグローバルガバメントの意志ですか?」

 「プロタゴラスに意志なんてないわ。こんなことができるのは人間だけ。だから人間の問題よ。これまで準備してきた通り、軌道エレベーターで移動する間に、今回のプロジェクトのプランニングをして、ドクター・イドリュムというプロタゴラスのマスタービルダーの責任者に“クォンタムスピン”をピッチするのよ。そのために、あなたをここに呼んだの」

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