TDKのAIは車両・農業・交通データの現場から「つながるコミュニティ」を加速


 「CES 2026」現地レポート最終回となる第5弾は、日本企業の出展にフォーカスしたい。家電見本市として始まったCESは、主役が自動車、モバイル、IoT、そしてAIへと移り変わるにつれ、会場に並ぶ「日本企業の顔ぶれ」も大きく変わってきた。近年は家電・自動車に加え、IT、素材、エネルギー、FMCGまで幅広い産業が参戦している。本稿では「CES 2026」に出展した日本企業の一部を取り上げたいと思う。

 まず、社長執行役員CEO の齋藤昇氏がパネルセッションに登壇した電子部品メーカーTDKから。同氏が強調したのは「No AI without data, no data without sensing」というメッセージだ。AIを前に進めるのは計算力だけではなく、物理世界をデータに変換するセンシングが起点であり、そこで得た信号を「使える示唆」に変える仕組みまでがセットだという。同氏はTDKを「AI enabler」として位置づけ、センサーとソフトウェアの統合、さらに視線意図を捉える技術など、「人間」を理解するヒューマンセントリックなデバイス領域まで射程に入れる姿勢を示した。

  

  
TDKの社長執行役員CEO の齋藤昇氏(上)とブース(下)。AI駆動ハプティクス/スマートグラス、EV・ADAS(先進運転支援システム)向け製品を展示。省エネ通信・ゲーム体験のICTも提案した。
 

日立×NVIDIAが語った「Physical AI」構想


 日立製作所の米デジタル部門のCMO アリヤ・バリヤニ氏は、NVIDIAのディープー・タラ氏を招いた質疑で、「Physical AI」を前面に押し出した。重さや物理法則、動く機械を扱うAIは「失敗の代償」が大きく、誤れば電力網など重要インフラの信頼性を損ねかねないという。鍵となるのは、現実世界データと現場のドメイン知見の統合だ。保守の現場では、AIが作業を記録し対話も行い、トレーニング資料やレポート作成に活用できると語った。さらに発表したばかりの次世代AIソリューション群「HMAX」では、シミュレーションと合成データで学習基盤を補強し、可用性向上などにつなげる構想を提示。Physical AI領域で、日立とNVIDIAは連携を深める方針だ。

  

  
日立製作所はHMAXを軸としたNVIDIA、Google Cloud、Nozomi Networksとの協業を発表。エネルギー・モビリティ領域の社会インフラを目指すPhysical AI、Agentic AIを展示でも発信していた。
 

パナソニック、KDDI、クボタ…日本企業が続々と次世代技術と新価値提案


  

  
上の2枚はパナソニックの出展。同社は「The Future We Make」をテーマに、AIによる業務最適化・廃棄削減・ウェルネス向上に関する出展を行った。没入型での体験を意識した展示(上)のほか、AIインフラやGX(環境)ソリューションの実装例も示された。


  
ソニー・ホンダモビリティの展示では、「AFEELA Prototype 2026」を世界初公開。「AFEELA 1」の思想を継承しつつ、室内の柔軟性・アクセス性を拡張している。

  
エネオスは、サーバーの発熱除去に使う浸漬冷却液「ENEOS IX」やEV潤滑油などを展示。「熱マネジメント」によってデータセンター需要への対応と脱炭素の両立を訴求していた。ラッピングされたサイバートラックがブランド訴求に一役買っていた。

  
KDDIの子会社KDDI Spherienceの出展。同社はKDDIのIoTイノベーション拠点として、グローバル通信接続を支援。展示ブースではコネクテッドカーや産業IoT向けのグローバル通信接続サービスを軸に、ソニーなどと連携した事例やコンセプトが展示された。

  
AGCは「モビリティ」「光学」「半導体」「エネルギー」の4領域で素材展示。自動運転に不可欠なLiDARと一体化したガラスルーフや、サングラスでも良好な視界を得られるヘッドアップディスプレイ「Reflective Blade for HUD」などをアピールした。

  
自動車用照明部品メーカーの小糸製作所の出展。北米で普及が進むADB(まぶしくないハイビーム)を高精細化(16000分割LED)し、夜間視界を最大化するライティング技術を紹介。寒冷地での視界の安全を確保する薄型融雪ヘッドランプなども展示した。

  
クボタグループの出展。スマート農業をテーマに、米スタートアップ企業Agtonomy社の自動運転システムを搭載し、作物の生育状況のセンシングや薬剤散布等の作業の自動化・最適化を実現するトラクターの統合自動運転ソリューションや、汎用プラットフォームロボットを披露。さらに、デジタルツインでの現場の可視化を提案していた。
 
  
自動車用計器などのメーカー矢崎総業の出展。高電圧・高速の配線、通信ソリューションなどの次世代技術を多業界向けに披露していた。
 
  
アルプスアルパインは車載・産業・環境・エネルギー向けの各種センサーやモジュールを出展。五感センシング技術(カメラ、マイク、触覚デバイスなど)、HMI技術による空間演出(音・光・振動・香り)、ソフトウェアとデータソリューション を統合することで、空間そのものを進化させる 「空間価値インテグレーター」 のコンセプト提案を行った。
 
  
京セラグループの出展。車載・産業向けに高精細センサーなどを展示。水中ドローン向け水中光無線通信や、3つのカメラを搭載した3眼AI測距カメラ、ミリ波フェーズドアレイアンテナモジュール(PAAM)などを紹介した。
 
  
パイオニアはSDV、二輪向けに統合サウンド基盤、AI車載カメラなどを展示し、新たな価値を提案。車室内サウンドに関する知見や、HMI、コネクティビティといったさまざまなデバイス、ソリューションが紹介された。
 
  
村田製作所は精密センシングと知能システムを展示。モビリティやコネクティビティ、ウェルネスの分野を中心に、ソリューションやデバイス、要素技術の紹介がなされていた。
 
  
受動部品メーカーの太陽誘電は「おもしろ科学で より大きく より社会的に」をテーマに出展。高信頼性部品や、1回の充電で最大1000km走行可能な回生電動アシストシステム「FEREMO」、積層圧電アクチュエータなどを展示した。
 
  
旭化成はミリ波レーダーやエナジーハーベスティング(環境発電) 技術などを活用した製品群を展示。見守りやヘルスケア向けセンシング技術として電池不要のスマートおむつ、ペットの見守りなどに使えるマイクロデバイスなどを展示した。
 

CESへの参加は日本企業のグローバルプレゼンスを高める機会


 5回にわたりお届けした「CES 2026現地レポート」はいかがだっただろうか。筆者は、日本企業がグローバルで存在感を高めるうえで、CESを舞台に「私たちは何を目指し、誰とともに、何を実装するのか」を継続的に発信することが欠かせないと考える。

 鍵は、AIや新興技術への取り組みを「単体の技術紹介」で終わらせず、パートナーシップやエコシステムの全体像として提示することだ。加えて、足元の製品・事業だけでなく、数年先にどんな未来を実現したいのかを、具体像を伴って示す必要がある。

 実際、CESで存在感を放つ米国・ドイツ・韓国企業の発信は、こうした要素を備えていた。スケーラビリティへの視点、ワクワクする未来像、そして現実のビジネスに落とし込む道筋。そのバランスが巧みだ。

 次は来年だ。CESを起点にプレゼンス向上を果たす日本企業が、さらに増えることを期待したい。
 
森 直樹 氏
株式会社電通
ビジネストランスフォーメーション・クリエイティブセンター
エクスペリエンス・デザイン部長/クリエイティブディレクター

光学機器のマーケティング、市場調査会社、ネット系ベンチャーなど経て2009年電通入社。米デザインコンサルティングファームであるfrog社との協業及び国内企業への事業展開、デジタル&テクノロジーによる事業およびイノベーション支援を手がける。2023年まで公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構の幹事(モバイル委員長)を務める。著書に「モバイルシフト」(アスキー・メディアワークス、共著)など。ADFEST(INTERACTIVE Silver他)、Spikes Asia(PR グランプリ)、グッドデザイン賞など受賞。ad:tech Tokyo公式スピーカー他、講演多数。CESでは、ライフワークとして各種メディアに10年以上の寄稿経験がある。