日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #23

ACC賞4冠の「THE FIRST TAKE」。2021年は、“あるがまま”が受けいれられる年だった

 

これって広告なの? ACC賞で4つのグランプリを獲得!


 THE FIRST TAKEプロジェクトに関わっていたのが広告代理店(TBWA HAKUHODO)で、ACC賞全12部門のうち4部門でグランプリを獲得しました。

 広告の業界団体であるACCが主催する「ACC賞」は、もともとテレビCMとラジオCMの分野で日本で最もメジャーな賞だったのですが、2017年からその対象を広告やマーケティングに関するより幅広い分野でのクリエイティビティに広げ、現在ではACC TOKYO CREATIVITY AWARDSと呼ばれています。

 広告やマーケティングというからには“広告主”が必要になるのですが、この企画での広告主はTHE FIRST TAKEというプロジェクト名となっています。しかし、出演しているミュージシャンの所属やTHE FIRST TAKEという名前の商標出願者からして、実質的に広告主に当たる企業は、某有名ミュージック・エンタテイメント会社と考えられています。

 というように、一般的な広告コミュニケーションとは成り立ち自体が少し異なるのですが、それでもACC賞の審査員は、この企画を高く評価し、結果として4冠となりました。ACCのWebサイトに掲載されている審査委員長達のコメントを、幾つか紹介してみましょう。
 
「音楽業界の仕組みをイチから変えるくらいの発明」

「コロナ禍で“自分を飾り立てる”みたいなことが気分に合わなくなった」

「ウソみたいなものはバレるという世の中になってきた」

「ダイバーシティということも含め、ありのままであるとか、自分らしくあるということが社会の中で重要になってきている」

「息遣い、ミスをしてもそのまま届けてしまう緊迫感も含めて共感できた」

「音楽は(中略)完成されたものを届けるという前提(があったが)それを根本からくつがえした」

「今までの広告の枠組みを超えて可能性を広げた」

「全体のアートディレクションも素晴らしかった」

 この“あるがまま”に連なる傾向が、THE FIRST TAKE 以外にも2021年は多く見られたように思います。

 筆者がこの連載で紹介して来たものだけでも、キムタクのおとぼけ演技で声高に主張しない「タウンワーク」や、ドヤ顔しないNO1訴求の「インディード」 、強く主張して来ないクルマのCM「ダイハツ ムーヴ・キャンバス」などです。こうした“過度に飾り立てない”“声高に主張しない”という傾向に連なる事例だと感じています。

 実は、世界の広告クリエイティブでも2021年、この“あるがまま”の傾向は、日本と同じように目立っていました。筆者はその傾向を「トゥルース・テリング(真実の吐露)」と呼んでいて、例えば、英国の生理用品ブランドBodyformによる「#wombstories(子宮の物語)」などもその系列に連なる事例であり、この連載でもすでにご紹介しています。

 超情報過多時代、飾り立てられたコンテンツには、嫌気がさす。すでにあったそんな感覚を、コロナ禍がさらに研ぎ澄ましたと言えるのが、現在の状況でしょう。来年2022年にも、まだまだこの傾向は続きそうな気がしています。
他の連載記事:
日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く の記事一覧
  • 前のページ
  • 1
  • 2

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録