CES 2025 現地レポート #05
世界最大級テクノロジー見本市「CES」でサムスンとジョンディアが見通した、AI軸の生活と産業の未来【電通 森直樹】
CES 2025 現地レポート
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- 第5回 世界最大級テクノロジー見本市「CES」でサムスンとジョンディアが見通した、AI軸の生活と産業の未来【電通 森直樹】
AIは生活や産業をどう変えるか? B2C、B2Bの両面から
「CES 2025」現地速報の最終回となる第5弾は、会期前に行われたプレスカンファレンスにさかのぼって注目プレゼンをレポートします。CESは公式期間前の2日間がメディア向けのイベントとなっていて、今年は現地時間1月5~6日がMedia Dayでした。初日はCES主催団体であるCTAによる「Trend to Watch」と「Unveiled」。これは本速報の第1回と第2回で詳報しているのでご参照ください。
2日目は多くの企業によるプレス発表会が朝8時から夜まで行われました。中心のテーマとなったのはやはりAI。最終回はB2C企業のメインとして登壇した SAMSUNG電子、そしてB2B企業では農機メーカーのJohn Deere(ジョンディア)のプレゼンから抜粋して、未来の生活や産業にAIがどんな変革をもたらすかを見通したいと思います。
AI軸に要素技術に回帰。サステナビリティ言及は最小限
SAMSUNGのプレゼンでは冒頭、CEO兼 DX(Device eXperience)部門長のJH Han氏が登壇しました。同氏は「SAMSUNGは10年間、ホームイノベーションをリードし、デバイス間の連携を深化させてきました。今後10年間でAIを中心に据えた革新を続け、次の世紀に向けた土台を築きます」と、次の10年はAIを軸に推進することを宣言しました。
まず言及したのが、SAMSUNGのスマートホームプラットフォームである「SmartThings」です。SmartThingsを基盤に家庭内のあらゆるデバイスを統合し、「Knox Matrix」というセキュリティシステムを活用してデバイス同士が保護し合う仕組みを採用することで、データの暗号化やセキュリティ脅威への迅速な対応が可能になるといいます。
さらにオーダーメード型ソリューションとして「Home AI」という新しいビジョンを発表しました。住まいを単なる生活空間から、住人の生活習慣や好みに適応するインテリジェントな空間へと変革させるといいます。たとえば、冷蔵庫が利用者の食習慣を学習することで健康的なレシピを提案するほか、洗濯機やエアコンが家族の生活リズムに合わせて最適な動作を自動化して行うとのことです。Home AIは生活スタイルのパーソナライズ化を実現する新しいプラットフォームというわけです。
エネルギーの効率化についても述べました。SmartThings に接続されたスマート家電は節電コントロール機能「Flex Connect」によって家庭のエネルギー消費を最適化し、電力料金の削減を実現できるそうです。ニューヨーク、カリフォルニアに続き、2025年からはテキサス州でもサービスを展開予定とのことでした。
SAMSUNGはAIと同時に次世代の技術革新を追求し続ける意向も表明。AIは単なるツールではなく未来における生活の基盤であると宣言して、プレスカンファレンスを締めくくりました。要素技術への原点回帰を印象づける一方、昨年のCESで強調していたサステナビリティについての言及は抑え気味でした。
自律技術で農業と建設の問題解決を目指す
昨年のCESで基調講演を担った米農業機械大手のJohn Deereが、今年はプレスカンファレンスに登場しました。同社は新しい自律走行システムを搭載した次世代の農業機械と建機シリーズを発表し、農業や建設が抱える深刻な労働力不足に対応するなど、30年にわたる技術開発の成果によって産業全体に変革をもたらすと宣言しました。
John Deereは自社の自律技術が、「労働力不足」「効率化」「安全性」「品質向上」に貢献すると強調しました。特に米国の労働力不足問題に触れ、米国の農家の平均年齢が58歳を超え、年間240万人の農業関連職が不足していると指摘しました。プレゼンテーションでは複数のカメラによる視覚認識によって、作業速度が40%向上したという第2世代の自律トラクターや、LiDARセンサー(光による高精度の距離測定技術)を組み込んだ高価値作物(果物、野菜、ナッツ)向けの自律トラクターなどを発表しました。
さらに、農業機械で培った技術を建設機械に応用した自律ダンプトラック「Dusty」もお披露目。GPSとカメラを駆使してリアルタイムで最適なルートを計算し、建設現場での効率性と安全性の飛躍的な向上が期待できるといいます。
また、電動化の推進や、自律技術を既存機械に統合することで、燃料コストやメンテナンス時間を削減し、持続可能な未来を目指すとしています。自律型農機械や建機の実現においてはNVIDIAとの連携についても触れられ、NVIDIAが自動運転や画像認識によるソリューションに欠かせない存在であることがここでも印象付けました。
John Deereの目標は、単に革新的な技術を開発することではなく、「お客さまの現実の課題を解決する実用的なソリューション」を提供することにあり、自律技術を活用して農業、建設、商業の未来を切り開くと宣言していました。
さて、「CES 2025」現地レポートはいかがでしたか?
今年はAIがプロダクト・サービスの中心として採用され、生活や産業にどのようなインパクトを与えるかや、各社のAIに対する期待や意欲が溢れ出るCESだったと思います。そして、昨年までの数年間にわたり主役となっていた「サステナビリティ」という考え方や取り扱いに対しては、昨年からの流れを組んで積極発信する企業と、触れはするものの発信のプライオリティを下げて、AIを中心とした新興技術や新プロダクトにフォーカスする企業とに2極化していたのが印象的でした。
また、ヒューマンロボットなど新興技術やプロダクトの可能性が示唆される年だったと感じています。AIやロボット、自動運転などライフスタイルにインパクトをもたらす新しい技術は、購買態度や企業とのコミュニケーション態度にも間違いなく影響するでしょう。本稿の読者、特にマーケターの皆さんには引き続き、CESに注目することをおすすめします。
森 直樹 氏
電通 ビジネストランスフォーメーション・クリエーティブセンター エクスペリエンス・デザイン部長/クリエーティブディレクター
光学機器のマーケティング、市場調査会社、ネット系ベンチャーなど経て2009年電通入社。米デザインコンサルティングファームであるfrog社との協業及び国内企業への事業展開、デジタル&テクノロジーによる事業およびイノベーション支援を手がける。2023年まで公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構の幹事(モバイル委員長)を務める。著書に「モバイルシフト」(アスキー・メディアワークス、共著)など。ADFEST(INTERACTIVE Silver他)、Spikes Asia(PR グランプリ)、グッドデザイン賞など受賞。ad:tech Tokyo公式スピーカー他、講演多数。CESでは、ライフワークとして各種メディアに10年以上の寄稿経験がある。
電通 ビジネストランスフォーメーション・クリエーティブセンター エクスペリエンス・デザイン部長/クリエーティブディレクター
光学機器のマーケティング、市場調査会社、ネット系ベンチャーなど経て2009年電通入社。米デザインコンサルティングファームであるfrog社との協業及び国内企業への事業展開、デジタル&テクノロジーによる事業およびイノベーション支援を手がける。2023年まで公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構の幹事(モバイル委員長)を務める。著書に「モバイルシフト」(アスキー・メディアワークス、共著)など。ADFEST(INTERACTIVE Silver他)、Spikes Asia(PR グランプリ)、グッドデザイン賞など受賞。ad:tech Tokyo公式スピーカー他、講演多数。CESでは、ライフワークとして各種メディアに10年以上の寄稿経験がある。