【読書の秋】トップマーケターの価値観を変えた一冊 #08

【読書の秋】クー・マーケティング・カンパニー 音部大輔氏、ユナイテッドアローズ 藤原義昭氏の「トップマーケターの価値観を変えた一冊」⑧

前回の記事:
【読書の秋】LINE 菅野勇太氏、花王 鈴木愛子氏の「トップマーケターの価値観を変えた一冊」⑦
 「読書の秋」は、マーケターとして成長する絶好の機会です。何を読むかを選ぶときに、トップマーケターのオススメ書籍を参考にすることで、新しい視点とアイデアに触れることができます。今回のテーマは「トップマーケターの価値観を変えた一冊」です。マーケター、ビジネスパーソンとして、自分に新たな価値観や視点を与えてくれた書籍を1冊紹介してもらいました。この秋、ビジネスの成功につなげる選書をしましょう。
 
【読書の秋】トップマーケターの価値観を変えた一冊
 

クー・マーケティング・カンパニー 代表 音部大輔氏


自分の価値観を変えた一冊:ブランド 価値の創造  石井淳蔵(著)、岩波新書
 

 私がマーケターとして駆け出しのころ、『マーケティング22の法則』(東急エージェンシー)や『アイデアのつくり方』(TBSブリタニカ)、あるいは『孫子の兵法』(三笠書房)や『影響力の武器』(誠信書房)などの書籍に多大な影響を受けました。いずれも、今となってはマーケティング領域の代表的な書籍だと思います。

 今回紹介する書籍は、神戸大学で博士論文を書くにあたって重要なきっかけとなった恩師である石井淳蔵先生の『ブランド 価値の創造』(岩波新書)です。ブランドマネジメントを生業とされているなら、熟読をオススメします。

 本書には、ブランドネクサス型ブランド、すなわち「ブランドによって自ら規定されるブランド」という考え方が出てきます。たとえば、無印良品のポテトチップスは、スーパーのポテトチップス棚ではなく無印良品という枠組みの中にあることでもっとも魅力的に見えます。これは無印良品というブランドが、自ら存在を規定しているからだと考えられます。

 個人的には、石井先生の近著『進化するブランド オートポエイシスと中動態の世界』(碩学舎、中央経済社)は本書と呼応していて、いかにそうした「ブランドネクサス型ブランドを創出するか」というテーマに対する大きなヒントを提示しています。
 

ユナイテッドアローズ 執行役員CDO 兼 マーケティング本部長 藤原義昭氏


自分の価値観を変えた一冊:ザ・ゴール  エリヤフ ゴールドラット(著)、ダイヤモンド社
 

 本書に初めて出会ったのは、30歳前後にマネジメントのプロセスと生産性についての理解を求めていた時期です。通常のビジネス書とは一線を画す物語形式で進行するので、一気に読み終えることができます。しかし、その中には極めて実用的かつ深い洞察が散りばめられています。

 最も印象的なのは「制約理論(Theory of Constraints)」です。多くの企業が「効率」を追求している中、ゴールドラットは「全体の効果」が最も重要だと教えてくれます。つまり、一部のプロセスが非常に効率的であっても、それが全体の目標達成に寄与しなければ意味がない、という観点です。これは、マーケティングだけでなくビジネス全体に適用可能な普遍的な真理であり、この視点がないと局所的な最適化に陥りがちです。

 また、本書は「継続的改善」の重要性も強調しています。「成功したと感じたらその瞬間から衰退が始まる」というメンタリティは、どんな状況でも常に次の「制約」を見つけて解決するプロセスを繰り返す重要性を示しています。

 これらの理由から、本書は単なる生産性向上の手法を教えてくれるのではなく、ビジネスにおいて「何が最も重要か」を見極めるための哲学とも言える強力な考え方を提供してくれます。本書に出会ってから、私自身ビジネス全体へのアプローチに大きな変化が生まれました。それだけでなく、チームやパートナーとのコミュニケーションにおいても、全体を俯瞰する視点が増え、より成果を出すための戦略的な決定ができるようになったと思います。

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